Mad Tea Party

外に出ると、その真っ青な青空を身体で感じた。

「うわぁ――――・・・いい天気v」

思いっきり朝のさわやかな空気を肺に入れる。
気持ちがいい。
鳥達の鳴き声。
涼しげな風。
抜けるような青空に浮かび、絶妙なコントラストを描いている白い雲。
何もかもが、心を潤してくれる。

「そうだ!天気も良いことだし、望ちゃんを呼んで桃の試食でもしようvv」

急に思いついたナイス・アイディアに手をポンと打つと、普賢は早速太公望の元へと出かけていった。

今日も平和な仙人界の一日が始まる。









「・・・・で、何で俺達まで招待されてるんだ?」

時間にして午後3時。
あれから約6時間が経ち、この場所には5人の仙人・道士が集まっていた。
少し大きめの円卓を囲むようにして座り、その上にはよく熟れた桃が山のように積んである。
それぞれの前では普賢特製のピーチティが誘うように甘い香りを匂わせていて、場を和ませている。
爽やかな初夏の風と混ざり合って、鼻孔を付く。

「何だ、文句でもあるのか、道徳?」

じろりと、疑問を投げ掛けた者・道徳真君を睨み付けたのは太公望。
今回他の者も呼ぼうと言い出したのは他ならぬ彼だ。

「望ちゃんがね、せっかくだから他にも何人か呼ぼうって・・・・。僕はどっちかって言うと2人っきりの方が良かったんだけど」

今回の企画者である普賢が皆に説明し始める。
今、目の前に置かれている桃は言わずもがな彼の手作りだ。
桃好きの太公望のために、より太公望好みのモノを作り、毎年この時期になると出来た桃を幾つか試食するのだ。

「いつも思っておったのだ。こんなに美味しい桃をわしが独り占めしていては詰まらぬ、と。皆にもこの美味しさを知って貰い、わしが如何に常々美味しい桃を食っておるかを自慢せねばなるまい!」

にっと子供のように笑って太公望が言った。

「そ。望ちゃんがど〜〜〜〜〜〜〜しても皆を呼びたいって言うから・・・」

「楊ぜん君とかは?呼ばなかったの?」

太乙がピーチティを啜りながら訊く。
確かに"皆"といっても3人じゃあ少ない。
しかもわざとなのか、色物3仙と呼ばれているこの3人だ。
何か理由があるのではと勘ぐりたくもなる。

「玉鼎とか・・・・・ね、太乙?」

しかしそんな太乙の揚げ足を取るのが雲中子。
この3人の中で一番のくせ者とも思われている、何を考えているのか分からないヤツ。
この言葉も、一体何を知っていて言った言葉なんだか・・・・;;;
太乙は途端に真っ赤になって言い返す。

「/////ッ、私はそんなイミで言ったワケじゃあっっ」

「楊ぜんは、普賢がイヤだと言うから・・・」

太乙を無視して太公望が言った。
太乙はまだ何か言いたそうに口をパクパクさせていたが、雲中子のすました顔を見て、大きく溜め息を付くと、諦めてまたカップに口を付けた。

「だって僕、楊ぜんのこと嫌いなんだもん」

「・・・・・・・。」

一同、絶句。
天使のように微笑みながら言う姿が、恐ろしい。
何故嫌いなのかも訊けない雰囲気だ。
凍り付いた苦笑いを張り付けた4人と、1人にこにこと笑っている図はハタから見るとどう見えるのか・・・・。

「あ・・・・だから玉鼎も呼ばなかったのか?」

「うん。彼を招待するとくっついてきそうだからね。まったく、何時までも師匠離れが出来ないよねぇ、楊ぜんって」

この場合くっついてくるのは師匠離れが出来ないからじゃない気もするが、誰もソコには突っ込まなかった
下手に口出しして"楊ぜんの味方"などど思われたら、今度はこっちが危ない、というわけだ。
哀れ、楊ぜん。

「・・・・で、何で私達なんだい?」

更に雲中子が訊く。
そう言えばこの回答はまだ得られていないが、他の2人はもうそんなことはどうでも良くなっている。
寧ろこの空気を変えるために話題を変えたかったのに。
余計なことは訊くなぁ―――ッと2人の視線が雲中子に向けられる。
あるイミ、普賢と対等に話せるのは雲中子だけかもしれない・・・・。

「雲中子にはいつもイロイロとお世話になってるからね。そのお礼もかねて。でも1人じゃ淋しいから、他の2人も呼ぼうかって・・・・・ね、望ちゃんvv」

「う・・・うむ///」

(・・・・・・イロイロって・・・・;;;)

何の世話かは、訊かなくても太公望の真っ赤な顔を見れば分かる。
要するに、そういうコトだ。
道徳も太乙もそれぞれに思い当たることがあり、顔を赤くして俯いた。

わずかな沈黙。
お茶を飲む音だけが当たりに響く。
さわやかな風が、また通りすぎた。

「そう言えば、最近おぬしのトコロに新しい弟子が来たらしいのう?」

太公望が、桃を手に取りながら雲中子に尋ねた。

「ああ。雷震子のことかい?」

同じように桃を取り、雲中子が答える。

「あ、雷震子っていうのか。俺、まだ会ったことないよな?」

「あれ?そうだったかな。すごく可愛い子だよ。一生懸命でからかい甲斐があって・・・」

「からかうなよ!オマエはっ!!」

聞き捨てならないことを言う雲中子に道徳はすかさずツッコむ。
雲中子にしても久々の弟子でさぞ嬉しいのだろう。
「師匠、師匠」と慕ってくる姿が愛しくて、つい実験台にしてしまうのだ。
既に人間ではない、なんてウワサも広まっているぐらいで、雲中子の溺愛ぶりもはかれる。
そんな愛情表現もどうかと思うが;;;

「太乙も弟子をとったんでしょ?たしか」

「うん。いや〜〜ナタクっていうんだけど、これがまた可愛くて可愛くて・・・vv」

こっちも随分な師匠バカだ。

「もともとは人の子なんだけどさー、イロイロあって、まぁ私が生みの親ってコトになるのかなぁ。すっごく生意気なんだけどね、時々淋しそうだったりして、人間の感情なんて無いみたいに見えるんだけど妙なところが人間みたいで、ホント可愛いよv」

滅多に弟子をとらない太乙にここまで言わせるということはナタクもなかなかすごい。
しかし一番のポイントは"生みの親"ということだろう。
親は無条件に子を愛するもの。
師匠バカというよりも、親バカなのだ。

「僕のトコロの木タクの弟なんだよね」

「おぉ、そうなのか?ではさぞかしパワフルなのであろう」

以前遊びに来たときに会ったことがあるので、太公望はその時の様子を思い出して言った。
今日は久々の休みらしく、兄の金タクと共にナタクをからかいに言ったのだと、普賢が話す。

「あの2人が来てくれるとナタクも楽しそうだからいいんだよね」

「ほぉ・・・、わしも一度会いたいもんだのう」

「でも望ちゃんはまだ修行中だし、あんまり人に会わないんじゃない?」

「ヌ・・・・・」

普通に話してはいるが、彼らの中で太公望だけが未だ道士だ。
そのこともあり、太公望は普賢の言うとおりあまり他の道士に会うことはない。
12仙やその他偉い仙人などはよく会うのだが。
その弟子となるとそれはほとんどない。
名前だけしか知らなかったり、新しく入ったというウワサを聞くだけだ。

「道徳のトコロの"天化"にもまだ会ったことはないのう・・・」

「天化君も可愛いよねぇ、いぢめ甲斐があってv」

またも雲中子はとんでもないことを言い出す。

「オマエ、人んトコの弟子までいぢめるなよっ!!」

「何を言ってるんだい、彼が私のモノに色目を使うからだろう?まあ、まだまだ私を敵に回すなんて100年早いけどね」

「な、あ・・・・・・っ//////」

誰がオマエのモノだ、と言おうとするが、それは3人に自分たちのことをバラすことになってしまうので言葉に詰まる。
まあ言わなくてもバレバレなのだが、まだバレてないと信じて疑わないあたりが道徳の可愛いと言われる所以だろう。
3人はこのやりとりを呆れた目で見ながら、大きく溜め息を付いた。














西の空が赤く染まり始め、暖かだった風にも涼気が含まれ出す。
太公望は最後の桃を口に収め、食べ終えると「さて」と言った。

「そろそろ、お開きにしようか。もう日も暮れかけてるし、木タクも帰ってくるかも」

主催者である普賢が立ち上がり、卓の上を片づけ始める。
3仙も「そうだな」などと言いながら銘々に席を立ち、帰る仕度を始めた。

「じゃあ、今日は有難う。桃、美味しかったよ」

太乙が言った。

「普賢の桃なんてそうそう食えるものではないからのう。わしに感謝せぇよ」

かっかっか、と太公望は笑う。

「ホント、今日は楽しかったねぇ」

「・・・・・オマエはな・・・」

雲中子も期限が良さそうだ。
道徳はどっと疲れたようでもあるけど。



「太公望、」

道徳が、太公望の方を振り返り、真面目な顔で呼びかけた。

「ん?」

「・・・・・いや、その・・・・・・・・、修行・・・がんばれよ」

「?うむ。無理せぬ程度に頑張るよ」

結局、道徳は言葉を濁し優しく微笑い、雲中子と太乙も顔を見合わせて、同じことを想った。

――――俺達の弟子を、頼むぞ。

空は暗くなりつつあり、一番星が輝いている。

あるとても晴れた日のお茶会。
封神計画が始まる前の、平和なある日の出来事だった。
これから起こるいろいろな事は、言うまでもナイ。
















▼△▼2001/07/27(Fri.) 16:45▼△▼
BY竜魅