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 ―千年伯爵はどこか険しい表情(かお)をして…カツカツカツとやや早足で真っ白な回廊を進む…
 …背後に一人のノアを付き従え…

 「……それで…あの子はいまお部屋で眠っているのですネ…v…」
 自分の後を歩くノアに、伯爵は振り向きもせずそう問うて確認する。
 「…あっ…はい…なんだか酷く疲れていたようで…馬車の中でもう眠ってしまって…だからそのままあの子の部屋に連れて行ってベッドに寝かせました…」
 伯爵に問われてノアは頷いてそう答えた。

 「…それで…イエ…いまは早くあの子の所に行きましょウ…v…」
 伯爵はノアに更に『何か』を言おうとして、しかしその言葉を呑み込むとそう言って更に僅かに歩くスピードを上げた。

 ―そしてある部屋の前で立ち止まりその扉を心なしか慎重に…音を発てないように開けた…


 
―囚われた『幼子』と父の『決意』と― 


 伯爵が訪れたその部屋は…タンポポの綿毛を思わせるような色合いとフワリとした柔らかさの絨毯が敷かれた部屋だった。

 …可愛らしい…けれど上品な造りのテーブルや椅子そしてタンスと言った家具達に、木馬やいくつもの大きなぬいぐるみ達に、沢山の玩具達が所せましと置かれたその部屋の一隅には、造りは豪奢で上質ではあるが、やはりどこか可愛らしい印象のある大きな天蓋付きのベッドがあった。

 そのベッドの真ん中で…小さな…茶色の髪の男の子が自分と同じ位の大きさのクマのぬいぐるみを抱いて眠っていた。
 スゥースゥーと可愛らしい寝息を立てて眠るその姿は稚く…とても愛らしく伯爵はその子の寝顔を見て優しく微笑む…

 「……よく眠ってますネェ…v…ああ!このクマちゃんは先日我輩がこの子の5回目のお誕生日にプレゼントしたヤツですネv気に入ってくれたのですネv嬉しいでスv」
 そして子供が抱いて眠るクマのぬいぐるみに、喜びの声を上げる。

 「……あ…あのそれで千年公…」
 嬉しそうに愛しげに眠る幼子の頬を撫で、髪を梳く千年伯爵に恐る恐ると言った様子で、伯爵に付き従い彼と共にこの部屋を訪れたノアが伯爵にそう声を掛ける。

 「……解ってまス…v…いま診まス…v…心配は要りませンv我輩はパーフェクツ!デスv…」
 恐る恐ると言った様子で声を掛けて来たノアに振り返りにっこり笑って伯爵はそう言った。
 「……ほっ…そうですよね…千年公ならっ…」
 伯爵の笑顔にホッと息を吐いてノアは安心して胸を撫で下ろした。

 ―『ああもう大丈夫』と…

 …しかしそれも束の間…

 「…っ!vこっ…これハッ…!v…」
 伯爵の常にはあまり聴かない。慌てたような声がして、ノアの男もまた慌てて駆け寄る。
 「…どっ…どうしたんですかっ!?千年公!?」
 慌てて駆け寄ってきたノアの男を肩越しに見遣り…
 「…マナ…アレンは突然悲鳴を上げ『左手』を押さえのたうち苦しんだ。そう言いましたね…」
 そうその男。マナに事前に聞いていた『出掛けた先で子供の身に起こった事』を確認する。
 「…あっ…はい…オモチャ屋で突然…オモチャのペンダントを見てた時でした…どれがいいだろうって…」
 「…ペンダント…?…アレンがですカ…?v…」
 幼子がオモチャ屋でペンダントを見ていたと聞いて、一瞬起こっている事態も忘れて伯爵は『ハテなんででしょう?』と首を傾げる。

 オモチャ屋に行っていたと言うのはまあ聞いていた。その前にはお菓子屋にも行ったと…お菓子屋とオモチャ屋に行く事自体は別におかしい事ではない。事前に聞いていたし、相手はまだ幼い子供な上に、自分も出掛けるのなら寄ってくると良いと勧めたりもしたのだから…
 そこまで考えて伯爵は『…しかし…』と思う。

 …クマを抱いて眠る幼子はとても愛らしい…頬笑ましくて口元が綻ぶほど…けれど…

 「…アレンは男の子なのにペンダントなんて欲しがったのですカ…?v…」
 …いったい何故?…よもやロードにやたら可愛らしい服を着せられて変な趣味に目覚めてしまったのでは…?…
 疑問を抱き…『何故』と問おうとして…フッと過ぎったその考えに一瞬伯爵は固まる。
 「…イエ…いけませンいけませン…いくら可愛くてもアレンは男の子ですヨ、なのにっ…」
 一瞬だけ固まって…しかしすぐにハッとすると伯爵は冷や汗を流しながらブンブンと激しく頭を振る。

 「……あ…あの…千年公…?…なんか…随分誤解されてるような…」
 激しく頭を振る伯爵に、マナは再び恐る恐るそう声を掛ける。
 
 「……へ…?…ごか…い…ですカ…?v…」
 
 ―『誤解している』…
 …そのマナの言葉に激しく頭を振っていた伯爵はピタリと止まり、マナを振り返る。
 
 「…あっ…はい…千年公…アレンは…ロードに誕生日の御礼をしたいって…それで…」
 振り返った伯爵にマナは頷いてそう告げると…
 「…ホントは内緒だって言ってたんですけど…少し遅いけどクリスマスプレゼントも兼ねてって…どうも誰かに聞いたらしいんですよ…『なんで僕は誕生日にプレゼントをみんなからいっぱい貰えるの?』って…それでみんなに御礼がしたいって…自分ばっかり貰ってばっかりなのは嫌だって言って…」
 そう心持ち声を潜め、ベッドで眠るアレンをチラリと見て、マナは心の中で『ごめん』と謝って続けて言った。

 「…じゃあ…アレンはロードに贈るつもりでペンダントを…?…」
 マナの言葉に伯爵は僅かに目を瞠り微かに震えた声でそう問うた。
 「……はい…本物は高いけど…このオモチャのならって…僕の貯めたお金で買えるからって…安いけど…綺麗だからきっと喜んでくれるって…そう言って…うっ…」
 伯爵の問いに答えるマナの声も震えていた。そして次第に悲しげに掠れ…遂には嗚咽が混じるようになる。
 
 「…安くても…自分の貯めたお金で買いたいとそう言ったのですネ…v…」
 マナの言葉に伯爵はそう確認するように告げると…

 「…なんてことカ…v…」
 そう呟いて伯爵はギリと強く歯を噛み締め、拳を握る。

 …ただそれだけだったなら…頬笑ましい話だった。
 …ああ優しい可愛い子だとそう言って頭を撫でて…

 …けれど実際に起こった事を考えればそれでは済まない。否済ませる訳にはいかない事だった。
 
 …嗚呼…この子は何一つ悪くはないのニ…v…

 ―オモチャ屋でペンダントを選んでいて、急に悲鳴を上げ、左手を握りのたうち苦しんだ。
 …そしてその直後アレンの『左腕』が真っ赤にまるで火傷でもしたように変わった。そうその時すぐ傍にいたと言うマナは語った。

 「…何故…何故…」
 ブルブルと震えながら伯爵は呟く。
 そしてバッとマナを振り返り…
 「…何故気付かなかったのですカ…!vおまえが…父親のお前が傍に居てっ…!v…イノセンスでス!vそのアレンが見ていたペンダントの中にイノセンスが混じっていたのでスッ!v」
 マナの襟首を掴みそう詰め寄って叫ぶ。

 「…イ…イノ…センス…?…まさか…何故…そんな…」
 険しい形相で詰め寄ってきた伯爵の言葉にマナは愕然として呟く。
 
 …目を見開きわなわなと震えながら…

 「…そんな事は我輩にも解りませンッ!vですがこの子はっ…アレンは我輩がっ…ノアが待ちに待った『特別なノア』だったのニッ…!v…」
 愕然として呟くマナに伯爵はそう激高して叫ぶ。

 …これまで細心の注意を払い大切に大切に育ててきた子供だったのにと…

 …それでも『自分』やこの『父親』であるマナが共にいるのならそんな万が一など起ころう筈もないと『邸』に閉じ込めては可哀想だと、『外出』を許してきた。しかしまさかそれがこんな形で『裏目』に出るなんて…

 …ましてこんな事態はまったくの想定外だった。

 解ってはいても伯爵は激高せずにはいられなかった。

 …なにしろ本当に大切に大切に育ててきた…特別な子供だったのだ。

 …その子供が寄りにも寄ってイノセンスに取り憑かれ冒された。伯爵達ノアの『天敵』とも言える『存在』に…

 …憑かれたその時は酷く苦しんだと言う…けれど今はそんな様子も見られず、すやすやと穏やかな寝息を立てている。

 …『固く赤黒く変質した左腕』…それさえなければただ遊び疲れて眠っているだけのように見える。

 …だが…違うのだ。現実は…
 そう思うまたも伯爵は強く歯を噛み締める。

 …アレンの身体にどんな異変が起こっているのか…今はまだ完全には解らない…けれど…ノアであるアレンにとってイノセンスは毒以外の何者でもない…
 そう考えて何とか取り除かねばと考える。

 考えて伯爵はゆっくりと慎重にアレンを起こさぬように気を遣いながらも、ベッドから徐に抱き上げる。
 「…せっ…千年公…?…何を…」
 その様子にアレンの父であるマナは慌てて問い掛け…
 「…調べるのですヨ…v…イノセンスを取り除く為ニ…v…」
 慌てた様子でアレンを抱き抱え部屋を出て行こうとした自分に、追い縋るように問うてきた父親であるマナに伯爵は低い声でそう答えた。

 …低い怒りの滲んだ声に伯爵の怒りの深さを感じマナは一瞬ビクリと震える。

 そしてマナがその怒りに気圧されている間に…伯爵はアレンを何処かへと連れて行ってしまった。

 ―次ぎに漸く会うことが出来たその時…アレンはすっかり変わっていた…

 …ビクビク…おどおどと…『何か』を常に恐れるようになっていた。

 …明るく無邪気で快活で…『家族』みんなに愛されていた子供が…千年公に懐いていた子供が…千年公を見て脅えるようになった…
 脅えるアレンのその姿に…そして『左腕』が変わらずイノセンスのままであることに、マナは理解した。千年伯爵がアレンに対し『何を』行ったのか…

 …『イノセンス』を取り除くと言う『行為』がどのような形で為されたのか…そしてマナは後悔した。
 …あの一瞬…千年公が発した怒気に脅え動けなかった『自分』に…

 ―そうして『決意』する…

 …アレンを連れて逃げようと…今度こそアレンを守ろうと…

 …喩えその結果…『裏切り者』と呼ばれようとも…

                                       ―終わり―

 ―あとがき―
 どうも皆様RINです。このお話は『螺旋の館』10周年記念&ネット落ちお詫びのフリーとして書きました。

 今回のこのフリーは出来ればもっと早く書き上げたいと思っていてなかなか書くことが出来なかったと言う曰く付きのお話です。
 内容は子アレンでしかもオリジナル設定のノアレンです。何気にマナもノアでしかも実の親子設定です。
 …ウチにある某シリーズと設定が被っているような気もしますが、気にしないで下さい。違う話ですので…
 ただ…裏設定として別のある話と実は繋がっています。
 …実は隠す必要は全くないので言ってしまえば以前フリーで書いた元帥ノアレンの過去話です。
 
 …しかしフリーだと言うのにまたしても長くなってしまって…お持ち帰り下さると言う奇特な御方、おられましたら申し訳ありません。

 …途中で話が脱線してるなと自覚しつつ、書きたくなってしまったが為に修正しなかったRINが全部悪いです。本当に長ったらしくて済みません。

 …にしても…ここまで書いて気が付いたんですが…アレンが一言もしゃべってない…でももういじれない…あうあう…

 …申し訳ありません<(_ _)>

 …何度目だろ謝るの…えっと本当に済みません。
 こんなのでも良かったらお気に召した方いらっしゃったらお持ち帰り下さい。 
  

 ※最後に… 
 この話は拙いながらもフリーでございます。お目汚しな駄文ではございますがフリーですので、もし欲しいという奇特な方おられましたら、この様な駄文でも宜しければどうぞご自由にお持ち帰り下さい。

 ちなみにお持ち帰りの際には、『螺旋の館』の名と『RIN』の名前を書き添えて下さい。
 そして二次配布はしないで下さい。

 それで…サイトへのお持ち帰りをして下さる方…どうしてもとは言いませんが…掲示板にカキコ頂ければとても嬉しく思います。

                             ―それではまたの機会に―RIN―

―ブラウザの戻るでお帰り下さいm(_ _)m 

 ―著作権はRINが有しますm(_ _)m


 ※申し訳ありません。またも誤字がありました。
 しかも発見が遅れUPから修正までに結構時間が空いてしまいました。
 既にお持ち帰り下さっている奇特な方、申し訳ありません<(_ _)>【2011年6月01日(PM)】

 修正個所は、上から11行目です。

 申し訳ありませんが、上記日付より前に『お持ち帰り』下さった奇特な方いらっしゃいましたら、お手数ですが『本文部』のみコピペし直して下さい。
 申し訳ないですが、どうぞ宜しくお願い致します。

 …それにしても誤字…今度こそと何度も見直したのに何ですぐに気付けなかったんだろう…うぅ…


 どうも本当に済みません、度々申し訳ありません<(_ _)>


                                ―螺旋の館・管理人―RIN―