「…そんな…なんてことだ…『神』よ…」
 …生まれた我が子に『それ』があることが…最初信じられなかった…
 …千年公が…そして他のノアが…この日誰もいなかったのは運が良かったとしか言いようがない…


 
―始まりの時―  


 「お前達ちょっとこっちに来い」
 そう言ってメイド達に声を掛ける。
 「…お前達…このことは誰にも言うな、今すぐこの場から離れどこか遠くで自爆しろ」
 …すぐ傍に控え…妻の出産に立ち会ったアクマ達に低い声でそう命じる。
 「?え?でもノア様…」
 「早くしろっ!」 
 戸惑うアクマに再度そう命令する。
 「?どうしたの?あなた…どうしてそんなこわい顔をしているの?」
 …不思議そうな妻の声に…ハッとする。
 「…ねぇ…あなた…早く赤ちゃんを見せて…元気な男の子だってさっきメイドが言ってたわ」
 …妻はまだ何も知らない…『この子』を見ていないから…メイド達も気付いてはいなかったから…自爆を命じた以上『この子』が生まれた事さえ誰にも言わず、何処かで自爆するだろう…
 「…ああ…済まない…すぐそっちに行くよ…」
 …そう言って妻を安心させたくて、なんとか笑みを作り、妻の傍まで行く…
 「…?あなた?」
 …すぐ傍まで来て、立ち止まった夫の様子を、妻は不思議に思い声を掛ける…
 「…あっ…ああ…済まない…その…この子のことで大切な話があるんだ…」
 …言い淀む夫の姿に妻はクスリと笑って…
 「なあに?急にどうしたの?もしかして名前のこと?絶対自分が付けるんだってあなた言ってたわよね、確かに早くしないと千年公に付けられちゃうものね、でも千年公はいま出掛けてるんでしょ?だったら慌てなくてもいいじゃない、それより早くその子を抱かせて、大体母親の私より先に抱くなんて狡いわ」
 …そう言って妻はにこにこと笑った…
 「…そうじゃ…ないんだ…」
 …早く言わないと…それは解っていた…
 …それこそ千年公が…あの人が帰ってくる前に話さないといけないと言うことは…
 …でも…なんと伝えれば妻のショックを和らげる事ができるのか…
 …悩める時間なんかなかった…
 …それでも…出来ることならばずっと悩んでいたかった…

                                            ―終わり―