『火雲洞0』 ―1―天皇の戯れ―
天界は火雲洞は天帝の住まいである…
其処の回廊を一人の青い髪の青年が歩いていた…
「句芒」
聞き覚えのある、涼やかな、穏やかな女性の声に呼ばれて青年・句芒は急ぎ振り返り膝をつく。
声の主は句芒にとって直に顔を見る事など憚られる相手であった為だ。
「何様でございましょうか?洛妃様」
「面をお上げなさい句芒、それと仰々しい呼び名もお止めなさい、そなたと私は古いつきあいではないか」
「そう言うわけには参りません」
「そなたは相変わらず堅苦しい…それではさぞ父様からは煙たがられておろう…」
「そのようなことは…」
「あるのだろう…下手な嘘は止すがよい…それより、そなたに文を預かっておる父様からだ」
そう言って洛妃は句芒に父から預かっていた文を渡した。
「では私はこれで行く…」
そう洛妃が声を掛けた時には、しかし句芒はまるで聞こえていない様だった…
その原因には大凡の見当は付いていた為、洛妃はそんな句芒の様子に気にも止めずその場を去って行った…
句芒は何か急ぎの用かも知れないと、洛妃から文を受け取ると直ぐにその文を読もうとした…
しかし…それは文と呼ぶには明らかに短すぎて…しかも内容はあまりのものだった…
『句芒へ…私は暫し出かけてくる…留守を頼む…太昊…』
その一文を何度も目に通し句芒は見間違えでない事を確認する…
大変だと顔を上げた時には、其処には誰もいなかった…
―続く―