…アレンは知らない事だが…私達は『本当』の『親子』だ…
 …『理由』があって私は一時アレンを手放し親友に託した…
 …親友に頼み…孤児院に預けた時期もあった…
 …その為アレンは自分を『捨て子』だと思っている…
 …孤児院の人達は良くしてくれたらしいが…子供達にはいじめられたらしい…『左腕』が醜いと…だから捨てられたんだと…
 …だからアレンは自分を『左腕』の為に捨てられた『孤児』だと思っている…
 …だが…その誤解を解くことは出来ない…
 …『本当』のことを話すわけにはいかない…

 …アレンを愛しているから…

 …この子のために…私達は『本当の親子』であってはならない…

 …私はこの子の…血の繋がらない『養い親』でないとならない…

 …本当は…こうやって育てることさえ…すべきでないのかも…知れない…

 …私達は…逃亡者だから…


 
―大道芸人親子のニアミス―
             ―序―
 


 …私達は逃亡者だ…

 …より正確には…『私が』と言うべきなのかも知れない…

 …アレンは『何も』知らないのだから…

 …そしてアレンが私の『養い子』である限りは…アレンは『無関係』でいられる…

 …少なくとも…私と妻が…最も恐れた事態からは…

 …その可能性からは…逃れ続けることができる…

 …その『最悪』の『運命』からは…

 …その『運命』からアレンを逃がす為に…私達は『一族』を裏切り『逃亡者』となった…

 …追い掛けてくるのは『一族』と『運命』…

 …しかし時に『血』が呼ぶのか…

 …それとも『運命』が逃がさないと追い付き掛けるのか…

 …『一族』を見かけることがある…

 …偶々…運良く…向こうが気付く前に私が気付き…逃げ延びることが出来ているが…

 …だがこんな生活は長くは続かない…

 …それは解っている…

 …何故なら妻は偶々私が留守をしている時に見付かってしまった…

 …彼女はもう生きてはいないかも知れない…

 …そして私も…いつまでもは逃げ続けることは無理だろう…

 …いつかは『あの人』が私を見付ける…

 …そう…『あの日』彼女を見付けたように…

 …私が彼女の為に出来ることはただ一つ…

 …『あの人』を欺きアレンだけでも生き延びさせること…

 …無事に『あいつ』に託すことが出来れば…『あいつ』がきっとアレンを守ってくれる…

 …そうすれば…少なくとも…その『最悪』の『運命』からだけは…アレンを逃がすことが出来る…

 …その別れの日が来るまで…束の間であろうと…『幸せと愛』に満ちた日々を送ろう…

 …喩えそれが…『追跡者』の目を交わし続け…ニアミスに脅える日々であろうとも…

                                            ―続く―