本音と真実 相変わらず集合時間に遅れてやって来たカカシ。 いつもならサクラとナルトのつっこみが入るのだが、今日はサクラ一人の怒声だけだった。 「先生、おそーい!!」 「何してやがった、ウスラトンカチ」 違和感がある。 それは集合場所に来た時から、サクラとサスケも感じ取っていた。 そしてその違和感を、上司であるカカシが口にする。 「あれ?ナルトはど〜したの??」 「???」 「何言ってやがる?」 カカシが吐き出した名前に、サクラとサスケが首を捻った。 聞き覚えのない名前だったからだ。 「先生、ナルトって誰ですか?」 本当に判らない、という表情だ。 けれど『ナルト』という名前に心が騒ぐ。 まるで大切な名前のように。 「おい・・・ナルトって誰だよ?」 サスケもサクラと同じ表情をしていた。 「何言って・・・・・」 冗談だろ? そう言いたかったのに、声が出てこなかった。 「おい、カカシ!」 「ちょっと、カカシ!?」 呆然と立ち尽くしていると、アスマと紅が自分の生徒を引き連れて走ってくる。 二人ともカカシと同じような表情をしていた。 「ナルトの奴・・・・・」 「あの子・・・・・」 それだけで理解出来た。 ナルトは下忍達の記憶を消したのだということが。 「シカマルも、シノもいねぇんだよ!」 「あの子達に関する記憶だけが、この子達から消えてるの!!」 「なっ・・・・・!?」 カカシ、アスマ、紅の三人が慌てている。 滅多に見ることのない上忍達の様子に、下忍達は言い様のない不安を感じた。 言葉に出来ない不安。 それは喪失。 何を失くしたの? 記憶が消えてる? ダレの? どうして? 「先生・・・何があったんですか・・・・・?」 「誰がいないんだよ・・・・・」 「何で足りないって思うんだよ!」 「どうして・・・・・」 「ヘンだよね・・・・・」 「可笑しいわよ・・・・・」 子供達が不安に感じている。 いるはずの人間がいない。 いつも傍らにいたはずの人が。 足りない。 「ナルトって・・・・・」 「誰なんだよ・・・・・」 サクラが涙を瞳に溜め、サスケが搾り出すように声を吐く。 「シカマルって・・・・」 「誰なのよぉ・・・・・」 消えた記憶にチョウジが手にしていたお菓子を地面に叩きつけ、いのが小さく呟いた。 「いねぇんだよ・・・・・」 「シノ君って・・・誰なの・・・・・?」 不安な主人であるキバを赤丸が心配し、ヒナタの瞳から涙が零れる。 足りない記憶と思い出に、子供達が不安を抱える。 カカシ達はどうすればよいのか、途方に暮れていた。 言葉で説明するのは簡単だ。 けれど、果たして『彼ら』がそれを望むだろうか。 大切な仲間から記憶を奪ってまで、姿を消した『彼ら』が。 「説明しておやり・・・・・」 落ち込んだ声と共に現れたツナデに、下忍達が詰め寄る。 何故。 どうして。 喪失感が拭えない。 「お前たちが忘れているのは、お前たちにとって大切な『仲間』だ・・・・・」 ぽつりぽつりとカカシが、アスマが、紅が説明する。 消えてしまった少年達を。 うずまきナルトを。 奈良シカマルを。 油女シノを。 性格や外見的特徴を聞いても、懐かしさが込み上げてくるだけ。 どうしても思い出せない。 思い出すことが出来ない。 「あの子が・・・ナルトがお前達にかけた術は、禁術だ・・・・・」 「記憶を奪い、封印する禁じられた術・・・・・」 「喪失感はあっても、奪われた記憶はもう戻らないのよ・・・・・」 記憶を奪われなかった者は、ナルトの正体を知る者のみ。 九尾の器ではなく、里を護り続けて来た『上忍うずまきナルト』を知る者達だけ。 「何で・・・何で下忍が禁術なんか使えるんだよ!」 サスケの悲痛な叫びが響く。 「ナルトは下忍じゃないよ・・・あの子は上忍・・・暗部クラスの上忍なんだ・・・・・」 その言葉を最後に、カカシは完全に口を閉ざしてしまう。 上忍が下忍をしていた理由も。 記憶を消した理由も。 何の説明もされないまま、彼らは解散となった。 その後、五代目火影による直々の命により、彼らの班は完全に解体された。 月日は流れ、木の葉の里から三人の少年が消えたことを誰もが忘れた頃、里に三人の人影が帰り着く。 任務を終えたばかりなのか、彼らは一様に疲れ果てた表情をしていた。 けれども為し終えた達成感だけは感じ取れる。 「五年ぶりだよなぁ、里に帰るのも」 「そうだな・・・・・」 「変わってねぇな・・・・・」 三人の青年は里を囲む巨大な塀の上から、眼下に広がる木の葉の里を見下ろした。 一人は黒髪でサングラスをした青年。 一人は長い黒髪を一つに縛り上げた青年。 そして一人は金色を纏った青年。 「んじゃ報告に行くか!」 金色の青年が明るく言い放ち、彼らは一斉に塀を蹴り上げた。 今日は彼らが喪失を覚えた日。 誰から言い出した訳でもなく、上忍や中忍になったかつての下忍の少年少女達は、火影岩の前に集まっていた。 無言のまま過ぎる時間。 今日だけは。 記憶にない『彼ら』を思っていたい。 見上げた先にある火影岩には、五代目であるツナデが追加されている。 あの日にはなかった、里で初めての女性の火影の顔が。 「ツナデばーちゃんの顔があるぞ?」 「お前ぐらいだよな、あの人を『ばーちゃん』なんて呼べるのは」 「口にしたら殺されそうだな・・・・・」 聞こえてきた声に、ぼんやりと火影岩を見上げてた一同が視線を向ける。 目の覚めるような金色。 相手も気付いたのか、一瞬だけ驚いた表情を見せた。 彼らは走り出す。 溢れ出した記憶と共に。 呆然と立ち尽くす青年達に向かって。 「おかえり、ナルト!シカマル!シノ!」 失った日に取り戻したのは、木の葉が舞う里の新たな灯火。 ★独り言★ 51000HITのRIN様のリクエストです。 でもリクエスト内容とかなり違う内容になりました。 撤去してしまったNARUTOコンテンツの、実質上の最後の話にしたくてこんな奇妙な話になってしまいました。 五年間に何をしていたのか、何故記憶を消していなくなったのか。 それに関しては、読んだ方のご想像にお任せします。 これで本当にNARUTOは終わりです。 |
むぎ様素敵な小説どうも有り難うございます(^_^)v 空白の五年間や何故ナルトが仲間達の記憶を消したのかとても気になります! …が私的にツボなのは帰ってきたナルトを一目見た途端に(…ナルトに禁術を掛けられて失われたというのにも拘わらず…)仲間達が記憶を取り戻したという事ですv 凄く感動しましたv 嗚呼!ナルトって愛されてるv そう思いました。 とても素敵でしたv リク内容と違ってしまっているとのことですが… どうぞお気になさらないで下さい。 ナルト休止状態であったと言うのにお言葉に甘えリクエストさせて頂き書いて頂けたというだけでもとても嬉しい事ですのに、撤去されてしまったナルトコンテンツの最終エピソードをよもやこの様な形で読めるとは思っておりませんでしたのでRINはとても感激しております。 本当にどうも有り難うございました<(_ _)> ―改めて―むぎ様、素敵なリク小説と転載許可並びにサイトへのリンク許可を頂き有り難うございました<(_ _)> ―それではこれからも頑張って下さい―RINm(_ _)m |