頭を振り、憂鬱な気分を振り払いバレヌゥスは数年振りに王宮大神殿に足を踏み入れた…
   

 
奇蹟のパテェシィエ―5―


 「待っていましたよバレヌゥス君、こちらの準備は出来ていますよ」
 バレヌゥスが神殿に入ると、そこにはどう見ても20代後半にしか見えない、若作りの神官長が立っていた…
 「?準備?なんの事ですか?セレフォス神官長、僕は女王の指示でここに来ただけなんですけど?ハッキリ言って僕は何の説明も聞かされて無いんですよ?」
 言葉遣いが心なしか刺々しいものになる…
 ゼフィール王宮大神殿神官長・フル=セレフォス、一応バレヌゥスの父方の伯父に当たる…バレヌゥスは昔からこの伯父が苦手だった…
 …一癖も二癖もある人物ばかりの一族の中でも…
 …理由は…この彼には、人の弱味を見つけてはからかうと言う悪癖があり…バレヌゥスは昔散々その餌食にされたためであった…
 必ず誰かをからかわずにいられぬフル=セレフォスにとって、大人しくのんびりやでのほほんとした所のあるバレヌゥスは、一癖あるゼフィーリアの大人達や彼の気の強い従姉妹達そして一族とは関係の無いごく普通の子供達(…と言っても他国の子供よりは余程普通では無いのだが…)よりも余程からかいやすい相手であったためだった…
 …それゆえ数年振りに会うこの伯父に対してだけはのんびりやのバレヌゥスでもつい身構えてしまうのだった…
 「…聞かされてない?そう言えばバレヌゥス君キミ随分来るのが遅かったですが、もしかして今日は料理長の所にいなかったんですか?」
 にやにやと人の悪い嫌味な笑みを浮かべる伯父の様子にバレヌゥスは小さく呻き僅かに眉を顰める。
 「…成る程それで女王の怒りを買い…ここに来るまで教えて貰えなかったのだな…」
 伯父の様子に嫌な予感を感じ、またその言葉が図星であった事もあって小さく呻いたバレヌゥスに追い打ちを掛ける様にフルは言った。

                                  ―続く―