―ゼフィール奇譚―


 「……それにしても…いくら彼女が不在だからといっても…何も僕でなくても…テミスの『従者』は本来『腹心』である彼女の役目なのに…そりゃ…彼女の不在時は『僕等』の中の『誰か』がって決まっているけど…でも…テミスの『従者』ってきついし…」
 …嘆息を吐き…薄い朱色の神官衣を身に纏いながらバレヌゥスは呟く…
 「…大体…予定では確か…後もう2・3日もしたら帰ってくる筈だし…確か一週間前の定期連絡の時にはむしろ予定より早く帰れるかも知れないって言ってたんだから…今日あたり帰ってくるかもしれないし…そうでなくたって…テミスが『帰ってこい!』って一言言えば、彼女は予定を切り上げて、何がなんでも、地の果てからでも帰ってくると思うんだけどなぁ…すぐに……」
 …錫杖を手に取り…
 …もう一度大きく嘆息を吐く…
 「…思えば…大変な身の上だよな…僕等……尤も…一番大変なのは…やっぱり…当事者の…彼女等なんだけど…」
 …そう言ってバレヌゥスは…聖域を後にした…
 
 
 奇蹟のパテェシィエ―9―


 …バレヌゥスは、王宮大神殿を出ると、まず真っ直ぐに私室に向かった…
 …旅支度を調える為である…
 …ある程度は…既に王宮や神殿側が準備をしていてくれたが、それは…あくまでも『ある程度』必要最低限でしかない。
 …それで旅が出来ないと言う訳では無いが…
 …この旅はただの旅ではない…
 …詳しい旅の目的や…行き先等は知らなくとも…
 『永遠の女王(エターナル・クイーン)』の『勅命』で『赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)』が『旅』に出るからその『従者』として着いて行けと言われれば…
 …その『旅』がどんな『旅』であるかなど…
 …言わずもがな…と言うものだろう…やはり…
 …だからバレヌゥスは『旅』の支度はしっかりとしておこうと思った…
 …尤も…本当のところ…理由はそれだけでは無いのだが…
 (…『旅』の途中なにがあるか解らないからな…もしもの時の為にも出来る限りの準備はしておかないと…彼女になんて言われるか…)
 …そう…実質のところ…こちらこそが本当の理由だった… 
                                  ―続く―