―VIEWPOINT―  

 …僕にとって…あの人は『特別』だった…

 …あのヒトが『生きて』いる…

 …そう聞いて…兎に角捜した…

 …必死になって…

 …『僕』らしくない…そう思いながらも…

 …捜さずにはいられなかった…


 
コワイヒト―0―


 「…楊ゼンか…何用か…」

 僕はようやくあのヒトに会えた……

 「ようやく見つけましたよ!」
 「うむ、見つけられてしまったのう……」
 …目の前のヒトは、以前のあの人のように笑っている…
 そんな貴方を見ていると、総てが悪い夢だったんじゃないかという錯覚に陥りそうになる……
 「最初から総て謀っておられたのですか?」
 「…楊ゼン…おぬしはわしを買い被っておるよ…」
 「魔家四将との戦いの時、僕は初めて太公望師叔が怖いと思いました……」

 ―『もしも あなたがあらゆる束縛を捨て汚い手を本気で使ったら魔家四将は おろか聞仲すらもその知謀で倒せてしまうかもしれません』―

 「師叔はあの時、否定されましたが、でも……」
 「…あなたにとっては、あの総てが意味のある事だったのですか?」
 …何も言わずにそこにいるあなたが…
 …僕はコワイ…
 …コワくて…あなたを見ることが出来ない……

 「…僕と王奕の人質交換も…羌族の滅びも…僕を片腕としたのも…」
 …あなたの顔を見ることができない…
 「…太公望師叔の怒りと理想も…王天君の憎しみと狂気も…」
 …そして…師叔が封神された胡喜媚との戦いの総て…
 「…王天君の魂魄分裂も含め…総て…あなたの計算の内だったのですか?」
 否定してください師叔……
 「…おぬしの言う通りだ…」
 「…だってあなたはさっき…」
 「確かに予定外の事もあったが…それは『わし』の計算外の事ではなく…目的は果たされた…」
 「………」
 「楊ゼン…『わし』を憎め…」
 「師叔!?」
 「『太公望』とは…『呂望』の死体を器として、分裂した魂魄を収めておった…偽りの姿だ…」
 「…そんな…」
 …総て偽りだと…
 …誰よりも信用できなくて同時に誰よりも信頼できたあなたが…
 偽り…否…そんな筈はない…誰よりも信用できないあなただからこそ…
 「武吉君と四不象に聞きました…女カとの戦いの時あなたは…」
 「策は常に幾つも持っておくものだ」
 「それでは何故それをしなかったのですか?そうすればあなたは労せずに目的を達することができた筈です、女カに休戦を呼びかけたのも…あなたが僕の知っている師叔だからではないんですか…」
 「…クッ…楊ゼン…おぬしは『伏羲』を識らぬ…それどころか…おぬしが知っていると思っている『太公望』…それさえも…真実どれ程識っていると言えるか…のう…」
 …コレは……本当にあのヒト……なんだろうか…
 「…僕は…師叔…」
 …コワイ… 
 「…伏羲・王奕・王天君・呂望・太公望…総て伏羲だ…記憶が在ろうと無かろうと分裂しておろうとおるまいと…それでもわしは…」
 「………」
 …師叔…
 「……楊ゼン…伏羲を憎め、太公望の事は忘れよ…」
 そう言ってあのヒトはその場から消えた…… 
                                   ―つづく―