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虚無の欠片 ―外伝5―


 ―ゼフィール王宮・本殿・内宮・最奥にその『門』はある…
 …『それ』はゼフィーリアの『至高』の『女王』『永遠の女王(エターナル・クイーン)』の『在る』という『宮殿』…ゼフィーリアでも『ある一族』の『ある特別な姉妹』にしか入る事が出来ないという…『黄金宮殿』へと到る為の…其処へと続く『ある回廊』へと続く大扉の手前に何故か在る『門』(…この『門』より先にはその『姉妹』以外は入れないと言われている…)の前に一人の女性がやって来るのを見て門番達(間違って誰かが入り込まない様に常時複数人いる)は一瞬訝しげに眉を寄せ、すぐにそれが『誰』なのか気付き、改めて身を正し礼を取る。
 
 …年齢は二十代前半位だろう…赤い華美でなく…しかし要所要所に小さく『赤の竜神』を表すだろうシンボルのあしらわれた…シンプルで所々にスリットが入っていて動き易さを重視して作られているだろうドレスを纏った、肩までの短い黒髪に…目元の所まで伸ばされた前髪で普段は見えないが…鋭く意志に溢れた紅い瞳を彼女は持っていた…

 「…こっ!これは!テミス様!一体!?」
 普段忙しいと言ってあまり『王城』にいない『王女』が、更に珍しくも…『王女』としての『正装』を纏って姿を現した事に古くからこの『門』の『門番』を勤める壮年の男性は驚きの声を上げる。
 「『女王(クイーン)』にお目通りする為に来たの!通るわよ!」
 苛烈な炎の様なその気に呑まれ門番達が何も言えず立ち尽くすその横を『王女』はすたすたと通り過ぎた…

 「…あの…あの方は…確か…」
 まだ年若い『門番』の一人が…おずおずとした様子で…口を開く…
 「…ああ…そう言えばお前は新前だったな…『あの方』にお会いするのは初めてか?」
 壮年の門番がそう彼に問い掛ける…
 「…イエ…僕も『一族』の端くれです、何度かは…それに…僕はあの店の常連ですし…魔道士協会では『彼女』とも同期でしたから…尤も…『彼女』はすぐに上に行ってしまったのですけれど…ハハ…」
 …自嘲の笑みを浮かべた後に…
 「…ただ…あの様な『あの方』は…」
 …息を吐いて言う…
 「…成る程差詰め『王女』としての『正装』をされた『あの方』を初めて見た…と言うところか…」
 「…はい…それで少し驚いてしまって…」
 「…そうか…だがな…『あのお姿』も『あの方』だ…そして『我々』の『王女』として『赤き秩序と月の王女』としてあられる時には…我々は決して気安く『あの方』の御名を呼ぶ事は許されないのだと言う事を覚えておく様に。…そしてこれは先程お前が口にした…『彼の妹御』にも言える事だ…『王城』特にこの『門』の前ではな…」

 …その言葉は酷く重々しかった…


 
―『女王』と『王女』の語らい―
  
 
 …その彼女が玉座の前で重々しく口を開いた…
 「…今日はお願いがあって参りました…」
 …悲痛な声で…
 「…尤も貴女様には既にお解りでしょうが…」
 …そう言うと僅かに俯いていた顔を上げ…
 「…あの子を…あの子をどうか…もう自由にしてあげて下さい…真実(ほんとう)の意味で…」
 「…あたしはあの子を自由にさせているわよ」
 凛として冷涼たる…まるで妙なる楽の音の様な高く澄んだ美しいこの世のモノとは思えない声が、天蓋から幾重にも下りる薄い幕の向こうにある、玉座からした…
 「…ですがっ!では何故あの様なっ!」
 彼女は玉座に在る『至高』の『女王』に声を荒げる…
 …彼女にしてみれば…これは珍しい…
 「…フフ…テミス…貴女は本当にあの子が絡むといつもの冷静さを失うのね…可愛いわね…フフ…でも…『あれ』はあたしでは無いのよ」
 楽しそうに笑みを浮かべて『女王』は告げる。
 「え?それはどういう……?」
 彼女はその瞳を見開き、キョトンとした様子で問い掛けかける…
 「…くす…でも勿論…あたしも承知のことよ…でもね…『誰』が『何故』『あれ』を下したのかは…内緒よ…教える訳にはいかないわ…」
 『女王』は楽しそうに微笑みながら彼女の言葉を遮って言う…
 「…それほど心配することは無いわよ…『あれ』はむしろ『あの子』を思っての事よ…強いて言うならばね…」
 くすくすと『女王』は微笑みながらそう続けた…

                                  ―終わり―



 
 
 

       

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