―巡り会い― …1…
…ずっと…何かが足りない様な…そんな気がしていた…
本日12月23日―明日はクリスマスイブ―
学校は冬休みに入り、明日はクリスマスイブ、だからみんなが浮かれるのは仕方ない。
普賢は一人、浮かれる友人達を余所に冷めていた。
そもそも普賢は最初から乗り気ではなかったのだ、ただ付き合いで断れなかっただけだった…
大学のゼミの友人達が企画した、何処かの女子大生数人との、クリスマスパーティを兼ねた合コン…
はっきり言って見え透いている、暇なら付き合えと数合わせと人寄せの為に付き合わされた、つまらないイベント…
この時はただそれだけのものだった…
本日12月24日―クリスマスイブ―
「なあー邑姜…俺…疲れたんだけど…」
「駄目です!あなたは昨日、ご自分が仰った事を忘れたのですか?」
姫発に皆まで言わせず、邑姜はそう言いながらもその手を休めない。
『邑姜…今日は大学のダチとの約束があるんだ、ゼミの奴等みんな参加するんだ…俺等のゼミが主催の集まりだから…主催者の一人が今更休めねぇだろ、ほら…頼むよー明日は今日の分まで働くから…』
『…解りました…そう言うことなら仕方ないですね、でもくれぐれも羽目を外し過ぎないで下さいね、遅くなるようなら迎えに行きますから…それと明日の事を忘れないで下さいね』
邑姜の言葉に、姫発は昨日、出かける前に邑姜と交わした会話を思い出し、罰の悪そうな顔をして、押し黙った。
本日12月25日―クリスマス―
―午前0時―
「ハァー…やっと終わったー」
「ご苦労様です」
書類の散らばるその部屋には、机に突っ伏し、半死人状態の姫発と、そんな姫発とは対照的に、今も事務的に仕事の後片付けを行う邑姜の姿があった。
「なあ…邑姜…今日は…その…一日休んでもいいんだろう?」
イブ返上で働いたのだからそれ位はいいだろうと、聞いてみる…
「駄目です!」
「なっ!なんでだよ!いいじゃないか!チョットぐらい!」
「10時迄です!10時には迎えに来ますので」
「10時?何で10時なんだ?」
仕事があるのは解っていた…だが10時とは…邑姜にしては珍しく遅い時間だ…
「11時から、西岐グループのパーティがありますので、10時にはこちらを出ないと間に合いませんので」
「邑姜…それ俺も出ないと駄目なのか?」
「当然です、私も小父様も出るんですよ、あなたが来なくてどうするんですか!」
「え…あいつも来るのか?」
「ええ…いつまで、居るのかは解りませんが…」
「そうか…解った…」
―12月25日―西岐グループ主催・クリスマスパーティ―
「あれ?あいつ…」
見知った姿を見つけ、姫発は立ち止まる…
「どうかしたんですか?姫発さん」
不意に立ち止まった姫発の行動に、不審を覚え邑姜は声を掛ける。
「いや…なんか…知ってる奴が居た様な気がしたんだけど…」
「当たり前でしょう、此処には西岐グループの関係者の方が集まって居るんですよ。」
人前では寝ぼけないで下さいねと、手厳しく邑姜は言う。
「いや…そう言う事じゃなくて…」
「それでは抜け出す為の言い訳ですか?」
「いやそうじゃねぇけど…悪ィ…邑姜…すぐ戻る!」
そう言って姫発は走り出した…
何処かで聞いた事のある声がすると思ったが、普賢は気のせいだと思った…
こんな所で知り合いに会う筈が無い…会っても誰も話し掛けたりしないと思っていたからだ…
「…い…おい…お前…ちょっと待て…普賢…」
だから普賢は、名前を呼ばれて、初めて自分が呼ばれているのだと気が付いた。
面倒くさいなぁと思いながら振り向くと、そこには先日、普賢を面子が足りないからと合コンに誘った、同じ大学のゼミに通う学生が、息を切らせながら、近付いて来る所だった…
「あーやっぱりお前かーどうしたんだよこんな所で!」
「確か…姫発君だっけ…君こそどうしたの?それにどうしたのその格好…」
表面上はにこやかに普賢は接し、普段はラフな格好を好む姫発が、一流のスーツを着ている事を問う…
「あ…ああ…これね…俺これからパーティに出なきゃいけなくてさ…どうしてもこれを着ろって言う奴がいて…仕方なくな…」
それよりお前こそどうしたんだと問い返される、実は普賢もまた、姫発の様に一流の品では無いとはいえ、スーツを着ていた。
「僕のはリクルートスーツだよ、内定が決まった会社のパーティが今日このホテルであるから…」
「えっ…」
何か思う事があるのか姫発が黙り込む。
その様子に普賢は、特に用が無いのならそろそろ行きたいんだけれど、と思う…
「姫発さん!」
不意に姫発を呼んだその声に、声のした方を二人は向く…
普賢は驚いた様子で…そして姫発は…
「ゆ…邑姜…」
「姫発さん!こんな所で何を遊んでいるんですか!」
「邑姜…待て誤解だ!偶々大学のダチに会ったから…ちょっと話してただけで…サボろうとか抜け出そうとか…そんな気は…」
「あ…それじゃあ僕はこれで…」
突然の事に普賢は驚いていたが、姫発と別れるには丁度良い機会だと、挨拶もそこそこに、さっさとその場を思い立ち去った…
姫発と別れ、パーティ会場まで戻って来てから、暫く経った時だった…
「邑姜、姫発はおったか?」
人混みの中で、聞いたその声に、不思議な懐かしさを感じ、普賢は立ち止まりあたりを見回す…
暫くして、遠目ながら、姫発と先程の少女を見つけ、そちらの方に近付こうとした時…
不意に人混みの中から、ちらりと見えたその人物は…しかし直ぐに元の人混みに隠れてしまった…
「そう言えば…あの子…昨日、姫発君を迎えに来た子だったっけ…あの時も…あの人がいた様な…」
…邑姜がようやく姫発を連れて戻って来た…
…しかし…さっき人混みの中、わしを見ておったのは…
…では昨日、邑姜と共に姫発を迎えに行った時に見かけたのは…
…わしの気のせいでは無かったのか…
―続く―
―あとがき―
現代風パラレルです。クリスマス企画はこれで終わりです、が物語はまだ終わってません、むしろこれからです、というわけで今後は通常連載に移行します。