荒野を行く伏羲の頭上に不意に何かが陰を作った…
「…どこへ行くの?」
眠そうな…だが…不機嫌そうなその声に伏羲は顔を上げた…
―問答―
メェーメェー
…草原・包・羊の群…其処は羌族の村…
…ヌゥーヌゥーヌゥー
羊の上には太上老君…怠惰スーツは…無い…
「老子…あれを持ってきたぞ…」
「…やあ…久し振り…出来たんだね…そこに置いて…それじゃあね…ありがと…ヌゥー…」
老子にしては長く喋った方だろう…だが…
「老子…起きぬか老子!人に頼み事をしておいてなんなのだ!その態度は!」
伏羲には気に入らない様だった…
「…なに…まだ何か用があるの?」
(太公望の時も同じ様な事があったな…)
そんな事を思いながら伏羲は言う。
「当たり前であろうが!そうでなければなんでわざわざ、このような面倒な事をわしがするものか!ついでがあったからに決まっておろう!」
老子の襟首を掴み勢いよく揺するとうっすらと細目を開け…
「…なに?…用って…」
「邑姜から手紙を預かっておるのじゃが…」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべて、伏羲はそう言った。
「…おいといて…」
…ヌゥーヌゥーヌゥー
一言だけ言うと今度こそ完全に寝入ってしまった老子の様子に伏羲は嘆息し…
「しょうがないのぅーまだ話しは終わっておらぬと言うのに…」
そう言って、言葉を切った…
〈老子…太上老君よ…〉
老子の夢の中に伏羲の姿が現れる…
〈…どうせなら…最初からこの方が良かったんだけど…それで…何の用?〉
〈それはすまぬな…しかし話しがあると言うたのはそなたの方であろう…〉
〈ああ…その事…でもあなたが応じてくれるとは思ってなかったから…〉
聞きたい事があると問おうとし…いまは答えられないと、問う前に言われ…
話しは封神計画が終わってからという事になっていた…
〈それで…聞きたい事と言うのは?〉
〈…太公望は…もういないの?〉
現実にいた時とはまるで異なる淡々とした伏羲の物腰に老子は思わず思っていた事とは違う事を聞いていた…
〈…おぬしらしくないのぅ…どうしたのだ?〉
にやりと人の悪い笑みを浮かべる…
〈…別に…それよりあなたはこれからどうするの?〉
(…別にあなたを心配した訳じゃないし…)
口に出さずに言い訳する…でも実はあまり意味は無い…なにしろここは夢の中…老子のささやかな照れ隠し…目の前にいるのはそんなものは無意味な相手…
〈そう言えば邑姜が…〉
〈邑姜がどうかしたの?〉
〈さあのぅー〉
老子が気にしたのは邑姜…そんな事分かり切った上で…意地悪く、にやにやと笑いながら勿体を付ける…
〈分かったよ…もう何も聞かないから…〉
〈そのうちでいいからおぬしに会いたいと言っておったよ…それと会わせたい者もおると…〉
〈…そう…ありがとう…〉
〈ではわしはそろそろ行くからな!〉
そう言って伏羲は背を向け…
一歩二歩と歩いたかと思うと、不意に立ち止まり…
〈老君よ…そなた…諦観するのはまだ早いようだな…〉
そう言うと、夢の中のみならず現実からも姿を消した…
ただ一言その言葉だけを残して…
現実の老子の隣には、怠惰スーツと邑姜からの手紙…
―怠惰スーツが壊れたのはあなたのせいだからね…
そう言って以前に伏羲に無理矢理預けた怠惰スーツは一応直っていた…
「老子よ…答えならば、問うまでもなく、既に出ておろうに…それに気付けぬとはそなたもなかなか可愛いものだな…」
…亜空間―かっての王天君の部屋…その部屋のソファーに腰掛け、伏羲は嬉しそうに笑みを浮かべてそう言った…
―終わり―
―あとがき―
遅くなりました、土見さち様、申し訳ありません。
土見様からリクエストを頂き書かせて頂きました。
リク内容は後日談で伏羲様主体…と言う物だったんですけれど…
お目に適う物かどうか些か不安です…
何故か老子が出てます…(-_-;)
伏羲は老子をからかってます、でも実は喜んでます。
伏羲からしてみれば老子も子供、親の気分と言う奴ですね…
では取り敢えずはこれをリク小説として土見さち様に贈らせて頂きます。
―RINより―