「わーい!お父さん、僕叔父さんから一本取ったよ!」
「ほう!そいつは大したもんだ!よくやったな、天祥!」
そう言って、嬉しそうに駆けてきた末子の頭をポンポンと黄飛虎は撫でた。
―遺すもの―
西岐の開国武成王となった黄飛虎が、その日の雑務をようやく切り上げた時だった。
「飛虎兄貴、昼間の事だけど…本当に天祥の奴、仙人骨があるんじゃないか?」
「ああ、そうだな…本人はお前達から一本取ったと、ただはしゃいでいたが…」
そう言って振り返って弟達の複雑そうな顔を見る。
「そのうち、俺らじゃ相手できなくなると思うんだが…飛虎兄貴は忙しいし、もうじき戦争も始まる…天祥は自分も一緒に行くと言うだろうし…兄貴はどうするつもりなんだ?」
「長い戦争になるだろうからな…そうなったら連れて行く事になるだろうな…」
「兄貴!?」
「長い戦争だと、兵士だけが進軍するわけじゃないし…それに置いていくとなると、俺達が進軍している間、あいつをこの西岐に一人にする事になるからな…まあこの事は後で俺から天祥にどうしたいのか聞いておくか…」
「そうか…兄貴がそう決めたのなら、それじゃあ俺らはこれで…」
そう言いながら部屋を出ていった弟達を見送ってから飛虎もその部屋を後にした。
自室に向かうべく廊下を歩きながら、飛虎は昼間の事…そして先程の事を考えていた…
「天祥に聞いてみるって言ってもなあー、どうせ行くって言うのは解りきってるし…連れて行くのはいいんだが…それより問題なのは、あいつの事だから一緒に戦うとか言い出すに決まってるだろうし…」
どうしたものかと考えている時だった…
「武成王どうしたのだ?難しそうな顔をして…」
不意に聞こえたのは、声に似合わない爺臭い言葉使い…
「太公望どの…丁度良かった!実は太公望どのに相談っていうか…まあ頼みがあったんだ!一杯やりながらでも話さねえか?」
懐に隠し持っていた酒を見せながら飛虎は太公望に言う。
「おお!丁度わしも今仕事が終わった所だったのだ」
そう言って太公望は快諾した。
屋根の上に二人腰をおろし、酒を飲み始めて暫し経った時だった…
「見よ、武成王…見事な満月だのう…」
不意に太公望が仙桃を囓りながら、月を見上げてそう言った。
「ああ…そうだな…」
飛虎は太公望にどう話しを切り出そうかと思いながらそう返した…
「ここはこの城で一等見晴らしの良い場所でのう…よく楊ゼンを撒いてここでこうして酒を飲むのだが…ここにおると何と言うかのぅ…そうだのぅ忘れておった大事な事を思い出す事が出来る様な気がするのだ…」
楊ゼンには内緒だぞ、さぼれなくなるからのぅと言って太公望は呵々大笑した。
「太公望どの…天祥の事なんだが…殷との戦争が始まればあいつも一緒に行くと言うと思うんだが…連れて行くのは兎も角あいつ一緒に戦うとか言いそうだし…俺としては連れて行きたいんだ…俺達が戦に行けば豊邑には黄家の人間はいなくなる、あいつ一人を残して行きたくないし、傍に居る方が俺も安心だからな…だから俺は連れて行きたいんだが…」
「別に構わぬのではないか、どうせ武吉もついてくるのだろうし、ナタクもおるしのぅ…だが…わしはあやつらを戦いに参加させる気は無い!あやつらが何と言おうとな!」
「そうか…太公望どのがそう言ってくれるのなら、俺も安心だ…いや実は俺一人じゃ天祥を説得出来る自信が無くてな、安心したぜ」
そして飛虎は豪快に笑いながら酒を一気にあおった。
「武成王…相談というのはそれで終わりか…」
「その…太公望どのが忙しいのは判ってるんだが…天祥のな…面倒も頼みたいんだ…天化と一緒にでもな、ついでにでもいいからあいつらの事頼まれてくれねぇか?」
「珍しいのぅ…どうしたのだ?一体…」
「天祥の奴、仙人骨があるみたいだしな…おめえらにも随分懐いてるし…弟達じゃその内面倒見きれなくなるだろうし…それに…」
「それに?」
珍しく言い淀み、太公望に先を促される。
「これから始まるのは戦だからな…俺にもしもの事が無いとは言えねぇ…そうなったら…天化はあれでまだガキだ歯止めが利かなくなるかもしれねぇ…いざとなった時、天祥の事にまで気が回らなくなるかもしれねえ…だから…あいつら二人まとめて今の内からおめえに頼みたいんだ…」
「武成王…おぬしが死ぬつもりなのならわしはその様な事引き受けぬからな!」
「ああ、安心してくれ、死ぬつもりなんかねえよ、そんな気でいたら勝てる戦も負けちまうからな!ただ…まあ念の為って言うか…いくら強くなったって言っても天化も天祥もまだ子供だからな…俺だけじゃあ面倒見きれないかもしれねぇと思ってな…まあ太公望どのの事だから気に掛けてはくれてるとは思ったんだが、あいつらちょろちょろしてるし弟達は面倒見きれないって言うからそれでまあ一寸な…太公望どのが見てくれるんなら、俺らも安心だし…天祥も喜ぶだろうしな」
「そうか…そう言う事ならまあ気には掛けておくが…それにしても…以前楊ゼンにも言うたのだが…おぬしらは少しわしを過大評価しておるのではないかのぅ…」
「んな事ねぇぜ!それじゃあ…遅くまで悪かったな…」
「うむ…ではまた明日な、武成王…」
そう言って太公望は仙桃を囓りながら、屋根から降りて行った。
「太公望どの…すまねぇ…」
一人残った飛虎はそう呟いた…
―そして仙界大戦
「太公望どの!!!後は任せたぜ!!!」
―太公望どの…あいつらの事…頼んだぜ!!!―
―おわり―
―あとがき―
遅くなって申し訳ありませんでしたm(_ _)m
600HITのキリ番をゲットされたねこ様へと思い書かせて頂きました。
リク内容は武成王でした。
ご満足頂けるかどうか少々不安ですが…どうぞお納め下さいm(_
_)m