ペルソナ(孤竹編)―0―

 「…父上…羌族狩りにあう夢を見ました…」
 「…そうか…望よ、北の孤竹には伯夷の国がある…もしもの時には孤竹に向かうと良いだろう…皆にもそう伝えておく…」
 
 呂望が牧場を発った日の午後…牧場を宋異人が訪れた…
 「賢弟が!?」
 牧場を訪れた宋異人は、呂望に留守居役を任された少年から、事情を聞くと、直ぐまた馬首を返し牧場を出て、呂望の後を追った。

 牧野を…少年が一人歩いていた…
 その少年を見つけると宋異人は急いで呼び止めた…

 「賢弟!無事だったのか…よかった…」
 宋異人は少年に追いつくと馬からおり、そう声を掛けた。
 「宋異人…頼みたいことがある…」
 そう言った呂望の瞳には不思議な深みがあった…彼は稀にそんな目をすることがある…そんな時…望という名は正しく彼そのものだと、宋異人はいつも思っていた…
 「僕の生存は牧場の者達と、主立った者達以外には報せないでおいて欲しい、ただし馬族の関係者には一切伝えないでくれ…」
 呂望のその言葉に、宋異人は思わず己の耳を疑い問い掛ける…
 「…そんな…馬族は、馬氏の…馬氏にもか?せめて馬氏に位は伝えてあげた方が…」
 馬氏と呂望を引き合わせたのは自分だった、馬氏が呂望に寄せる思いを知っていたからこそだった…馬氏の気持ちを考えれば、他の誰に伝えずとも、せめて彼女に…と考える物だろう…あの優しく賢い呂望が、何故そんな事を言うのかと宋異人は思った。
 「それでは意味が無い」
 呂望はキッパリとそう言うと、また歩き始めた。
 その背を見て宋異人は思った。もう彼は声を掛けても、立ち止まるどころか、振り向くことすらしないだろうと…

 「隣の村が人狩りにあったってさ」
 呂望は隣の村まで一度戻って来ていた…
 隣の村の女達が、井戸で水を汲みながら、人狩りは殷の皇后の仕業だと、話しているのを…呂望は木の陰にいて聞いていた…
                                                                     ―つづく―
 ―あとがき―
 皆様遅くなって済みませんm(_ _)m7月下旬にUP予定と告知しておきながら…この体たらく…穴があったら入りたいです(T_T)
 ホントに済みませんでした。