…約550年前…
   
 「最近、竜吉公主の元気が無いんだって…」
 「やっぱり…燃燈の事が…」
 「…だろうなー…」

 
 
―仙人界のバレンタインデーその始まり―

 
 その日、竜吉公主は鳳凰山・金鑾斗闕の傍に在る桃園にいた…
 (…燃燈はあの時笑っておったが…酷い傷を負っておったようだった…)
 (…何故あの様な事になったのかは知らぬが…)
 (…原始は燃燈が死んだとは言わなんだ…)
 (…皆は燃燈が死んだと思っておる様だが…)
 (…恐らく…原始と燃燈は一芝居打ったのであろう…)
 (…芝居だとすれば燃燈は無事だろう…)
 (…だが…やはり…少し…)
 「…寂しいのぅ…」
 公主が小さな溜息と共にそう洩らした時だった…
 「…燃燈様が…居られないからですか?」
 不意の背後からの声に驚いて、公主は顔を上げ振り向いた…

 思い巡らす内に、気付かぬ内に、意図せずして洩らしていた呟きに、問い掛けられて、不意の出現に、声を掛けられる迄、彼の気配に気付けなかった事に驚いて、顔を上げた…
 そう言えば…自分は彼の気配を気付けた事があっただろうか?
 何時も…声や姿から彼を確認していた様な…
 そんな事を考えながら…公主は声の主を振り返る…
 声の主は…まだ…数える程しか会った事が無い、原始の一番弟子…
 「…王奕…おぬし…どうしたのじゃ?」
 滅多に会った事が無い相手…何か…原始にでも…用事を言いつけられて来たのだろうかと思い…そう尋ねてみる…
 「公主様…これを…」
 公主の問いに対し、王奕は頭を振り、小さな小箱を公主に差し出した…
 「…それは?」
 「…僕が昔住んでいた所での風習なんですけど…今日は…年に一度…普段お世話になっている人や…好意を寄せている異性に贈り物をする日だったんです…それで…」
 「もしや…それで…私にそれをくれるのか?」
 (…王奕が?)
 「…昔…妹が…この日にくれたその菓子が…とても甘くて…それを食べると僕は元気になれたんです…」
 そう言う王奕は少し悲しそうだった…
 「それは…甘い菓子なのか…王奕おぬし甘い菓子が好きなのか?」
 「それもありますが…この日の贈り物としての一般的な物なのだそうです…」
 「もしや…王奕…おぬしもあまり知らぬのか?」
 王奕の言葉に不意に疑問に感じ問い掛ける…
 「…実は…妹もあまりよく知らなかった様です…」
 その言葉に更に疑問に感じ問い掛ける…
 「よく知らぬのに贈り物を贈っておったのか?」
 「…ええ…でも…これは美味しいですし…是非公主様にも食べて頂きたいと思ったんです…」
 そう言い…王奕はその小箱を公主に渡し…
 そして…その渡し際に…
 「大丈夫…きっと無事ですから…」
 小さく…しかし確かにそう囁いて…
 …気が付くと王奕は去っていた…
 
 …箱を開けると…中には小さな茶色い菓子らしき物が入っていて…
 …食べてみると…甘くて優しい味がして…
 「…本当じゃな…この菓子は…甘くて美味い…」
 …気が付くと…知らぬ間に涙が零れておった…
 

 「あれ?公主何か良い事でもあったの?」
 「いや…だが太乙…何故そう思うのじゃ」
 「いや…あの…ほら公主最近元気なかったから…みんな心配してたんだよ…だから…元気になったのなら良かったなぁって…」
 太乙の言葉に気付けば口にしていた…
 「…王奕もか?」
 そう問うていた…
 「えっ?王奕?彼の事は知らないけど…彼がどうかしたの?」
 「いや…何でも無いのじゃ…それよりも皆に伝えてくれ私はもう大丈夫だからと…」
 「あっ!うん!分かったよ!それじゃあ」
 
 (…皆に心配を掛けておったのか…思いの外…私は参っておったのだな…)
 
 (…食べると元気が出たと言っておったのう…)
 (…王奕は何かを知っておるのかもしれぬ…)
 (…燃燈とは親しい様だったし…それに原始の一番弟子でもあるし…)
 (…それとも…単純に…私を励まそうとしてか…)
 「…何れにせよ…そなたは優しいのだな…王奕…」


 「…少し早いが…まあ良いか…異国の祭りだし…あれもあまり詳しくない…この程度の事なれば…あれとて気付かれぬであろう…」

 ―その日は太陽暦に直したならば2月14日―聖バレンタインデーである…―

 ―あとがき―
 遂に書いちゃいましたv王奕×竜吉物第2段!今度はバレンタイン物です!
 どのカップリングにしようか散々悩んだ末に結局ノーマルカップリング…
 時代もバレンタインだし現代パラレルか何かにしようかなどと思いつつ結局紀元前…
 といった事は兎も角…
 どうも皆様申し訳ありません<(_ _)>
 ホントは2月14日中にUPしようと思ってたんですけど…バレンタインデー…過ぎてしまいました…済みませんでした…<(_ _)>