友達だから
崑崙山に麗らかな春の陽気が指しこむ。
冬の間は辛かった屋外での修行もようやく楽になり始めた。
…とは言っても修行は元々厳しいのだと言う事に変わりはないのだが。
「望ちゃん、何所〜?」
テクテクと頭に輪っかを乗せた少年が歩く。
「先に行ったのかなあ?寝ぼすけな望ちゃんには珍しい。」
道士の朝は早い。
日が出て間もなく朝の修行が始まるのだ。
「いるかも知れないから先に行ってよっと。」
少年は朝日の中を歩いていく。
「雨が降らないと良いんだけど。」
友人を全然信じていないセリフを吐きながら少年は修行場に辿りついた。
「…???」
いつも瞑想する岩場に誰かが座っている。
「望ちゃん?」
それは友人に似ている。
「って、望ちゃんだよね。」
少年はさっきの疑問符を自分で訂正した。
友人以外の何者でもない。その見知った姿は。
「もう、めずらしいね望ちゃんが僕より早く来るなんて。」
岩場に近づいてニコリと微笑む。
天使の微笑で。
「………。」
「………?望ちゃん?もしかして…。」
ひょいと岩場に飛びあがると友人の傍に近づいた。
「………寝てるんでしょう?」
居眠りの常習犯である友人の性格を知っている少年は苦笑しながら顔を見ようと前に出
た。
「?望ちゃん?」
だが……。
夜が明けていく。
何度見たであろう光景。
暗い夜はいつかは明ける。
永遠など存在しないのだ。
朝はそれを思わせる。だが。
心の中に潜む悪夢もやがては、消えてくれるのだろうか?
もう、どのくらいそうしていただろう。
「…ちゃん?」
少年は友人の言葉に意識を取り戻した。
「なんだ、普賢か。」
「何だじゃないよ。先に来たと思ったら居眠りなんかして。元始天尊様にまた来られるよ!」
「居眠りなんかじゃ…。」
友人のあんまりな言葉に少年は思わず叫ぶ。
「解ってるって。冗談だよ。冗談。」
友人は気遣うよう微笑んだ。
「大丈夫、僕がいるから。」
「嘘だ。」
少年は振り返った。表情もなく断言する。
「…そうだね。」
そう、永遠などない。だから安っぽい約束などいない。
「だけど、心は消えない。」
己の悪夢と同じように。
永遠に消えないのだ。
「さあ、修行を始めよう。」
輪っかを持つ少年はもう1人の少年のそばに座った。
その2人に、太陽は静かにその優しい光を投げかけていた……。
”ずっと、消えない…。”
”友達、だよ。”
終り