…原始天尊様が最近弟子をお取りになったらしい…
その噂は竜吉公主の元にも届いてきていた…
―月夜の出会い―
その日は仲秋の名月―玉虚宮では月見の宴が催されていた。
最近原始天尊は弟子を取った、この宴はそのお披露目も兼ねているのではないかと、仙道達の間では噂になっていた…噂の新弟子に会ったという者が皆無であったためである…
竜吉公主も実はこの噂は気になっていた…何故なら、彼女の異母弟の燃燈道人が明らかに何かを隠していた様だったからである…
「のぅ、燃燈…最近…原始天尊は直弟子を取ったと噂に聞いたのじゃが…お主は会ったことはあるのか?」
「直弟子…ですか…いえ…私は…」
「無いのか…そうか私も無いのじゃ…他の十二仙も知らぬと言うし…一体どういう事かのぅ…」
「あの…異母姉様、実は急用を思い出しましたので…」
そう言って、あの時燃燈は出ていって、それから今日までろくに会っておらぬ…
一体どうした事か…あの時のあやつは明らかに様子がおかしかった…まるで何かを隠しているかのように…
今日はその事を確かめる為にこの宴に出向いたと言うのに、燃燈はおらぬし…原始の新弟子のお披露目も無いでは…私は一体何の為に来たのか…
もう帰るか…そう思い竜吉公主は玉虚宮を後にした…
「ふむ、美しい月夜じゃのぅ」
歩きながら月を見上げ…そう言った時だった…
何処からか話し声が聞こえた…その声のする方に向かうと其処には、異母弟である燃燈と見知らぬ少年がいた…
「一体どういうするつもりだ!王奕!!」
「…燃燈様…」
「誰だ!」
王奕と呼ばれた少年は穏やかにそう呼んだ…すると燃燈は何かに気が付いた様に顔を上げ、誰何の声を上げた。
「このような所で何をしておるのだ?燃燈」
「異母姉様…異母姉様こそ…このような所で何を…」
燃燈は心底不思議そうに問うた…
「私は宴の帰りじゃ…月を見ておった…」
「宴はもう終わったのですか?」
「いや…じゃがお主がおらぬ様だったのでな…」
「私がどうかしましたか?」
「おぬし…原始の新弟子の事で私に隠し事をしているであろう」
この異母弟は元々隠し事が下手だった…
「異母姉様…それは…」
公主に詰め寄られて燃燈は何と答えて良いのか分からず困っていた…
「あの…済みません…多分それは僕の事です…」
王奕は…詰め寄る公主と困る燃燈…この二人の間に割って入りそう言った…
「おぬしが…原始の?」
「はい…この宴の後で…原始天尊様からご紹介に預かる予定なんですけど…」
その言葉に…やはり知っておったのかと燃燈の方に視線を送った時…
「燃燈様には…つい先程、原始天尊様よりご紹介を…」
まるで心が読めるのではと思うような、そんなタイミングでその少年は言った。
「そっ、そうか…燃燈…疑って済まなかったのぅ…」
「そっ、そんな…私がはっきりしなかったのが悪かったのですから…それより、お帰りになるのでしたらお送りしますが…」
「ああ…いや、やはり最後まで残ろうと思う…」
「宴に戻られるのですか?では玉虚宮までお送りします」
「しかし…良いのか…」
少年の方に視線をやると、少年は穏やかに微笑み…
「僕の方の用事は終わりましたので、大丈夫です…」
そう言った。
「それでは異母姉様、玉虚宮にお送り致します」
そして燃燈と共に宴の席に戻った…
…不意に振り向いた時…
…月の光の為か…不思議な雰囲気を持った少年が其処にいた…
―あとがき―
ついに書いちゃいました!ずっと書きたかったんですv王奕×竜吉小説、とは言え今回は出会い編(仲秋バージョン)というところでしょうか?
取り敢えずこれは短編小説の棚に置く事になります…