―ヒトには様々な……………がある…
 …だが…もしも…ゆずれないものが…たら…
 ……どうする…
 …総てを棄てても構わないと思えるものと………なら…
 …そして…それが…絶対に手の届かぬ存在だとしたら…


 …唯一の…
 
 …ゆずれないもの…か…
 自身の洞府である、白鶴洞の庭先に植えられた一本の桃の木の下で、普賢は考え込んでいた…
 「普賢、何をボーっとしておるのだ?」
 その声に普賢は現実へと引き戻された。
 振り向くと…其処には封神計画の為に、下界に降りている筈の親友が立っていた。
 「望ちゃん…どうして…」
 「原始天尊様に少し話しがあってな…それよりおぬしは何を考え込んでおったのだ?」
 「…うん…ねぇ…望ちゃん…望ちゃんには、ゆずれないものってある?それのためならなにもかも棄てても構わないって思えるもの…」
 「うーむぅ…難しいのぅ…しかし一体どうしたのだ?おぬしがそんな事を言うとは珍しいのぅ」
 「うん…暫く前にね手に入れた本にそんな事が書いてあったから…」
 眉を顰め…真っ直ぐに自分を見つめる太公望に、そう言って古い本を見せる… 
 「そうか…それにしても随分と古い本だのう…ほとんど読めぬではないか…このような保存状態の悪い物を一体何処から見つけだしてきたのだ?」
 「木タクがね…拾ってきた変な箱に入っていたんだ…いま持ち主を探してるんだけど…何か見覚えがあるような気もするんだけど…」
 望ちゃんは知らない?と聞く、昔からこういう時には、この親友に聞くのが一番手っ取り早かった…
 ―否、彼には不可能を可能とする、そんな特別な力があるとさえ思っていた―
 「うーむ…どうだったかのぅ…見覚えがある様な気もするのだが…」
 本と箱を見比べながら望ちゃんが言う。
 「望ちゃんもそう言うなら、気のせいじゃないね…」
 「そんな事は解らぬぞ…もしかしたら気のせいかも知れぬ」
 僕の言葉に望ちゃんは指を立てて、真面目そうな顔で言った。
 「そんな事言って、本気じゃ無いんでしょ…それより答えてよ望ちゃん…」
 「もう一度見せよ」
 苦笑する僕に、手を出して、そう言う。
 「うん」
 僕は頷いて望ちゃんに本を渡す。

 そして望ちゃんは暫く、その古い本の、辛うじて読める、その部分を読んでいた…
 前後の文脈も解らず、途中にも解らない箇所がある…そんな文章を…

 「…何か…ようわからんのだが…少し矛盾があるような気がするのだが…」
 中途半端なものだからかのぅ…と望ちゃんが小さく付け足すように言う。
 「うん…でも取り敢えず、望ちゃんだったらどうする?ゆずれないものが、総てを棄てても構わないものが、絶対に手に入らないものだったら…」
 「そうだのぅ…別にどうもせぬよ…大切なのはそう思う心と、それそのものであろうし…大体普賢そんな事はおぬしの方が良く解っておろう!」
 「やっぱり望ちゃんだね…でも僕は望ちゃんの答えを知りたかったんだ…」
 「物好きな奴だのぅ」
 そう望ちゃんが笑った時だった…
 「師叔、太公望師叔ー」
 バサバサという羽音と共に望ちゃんを捜す白鶴の声…
 「望ちゃん白鶴が捜してるよ…」
 「うむ…ではな普賢」
 そう言って望ちゃんは駆けて行った…

 「望ちゃん…本当は僕…望ちゃんにそんな存在があるのかどうかを知りたかったんだ…」
 太公望の姿が見えなくなった頃、普賢はそう小さく呟いた。
 
 「望ちゃん…僕のゆずれないものは『望ちゃん』だよ…」
 ―望ちゃんの為なら何も要らない、何でも出来る…それが僕の…唯一の…―
 
                        ―終わり―
 ―あとがき―
 ようやく書き上がりました、遅くなって申し訳ありません<(_ _)>
 これはKURENAI様からのリクにより書かせて頂きました。
 リク内容は、普賢と太公望で表でも裏でも、長編でも短編でもなんでもいい、でした。
 ご満足頂けるかどうか少々不安ですが、取り敢えずこれをUP致します。
 尚、ご不満な場合は、仰って頂ければ、時間は掛かると思いますが、書き直しを致します。
 それでは、キリ番HIT&リクエストどうも有り難う御座いました。
                        ―RINより―