…夢をみていた…不思議な夢を…
 …何時の頃からかみるようになったその夢…
 …不思議な感覚だけを残して…
 …思い出す事が出来ない夢を…


 …ゆめの欠片… ―壱―


 「…様…兄様…大好き…」
 …小さな妹の見る者を幸せにする様な微笑…あれは何時の事だっただろう…
 …最早取り戻せぬ程遠い…時の彼方の…過去(ゆめ)であるような気がするのは何故なのだろう…
 
 …パチパチ…誰かが頬を軽く叩いている…
 「…にいさま…おきて…ぼうにいさま…」
 小さな手…幼い愛らしい声に呼ばれて目を覚ます…
 …嗚呼…妹は此処にいる…
 …そして…僕も此処に在る…
 それなのに一体何が不安なのだろう…
 …まるで総てが泡沫の夢の様に…なくしてしまいそうで…
 
 …出来るのならばもう二度と…失いたくはないのにと思い…
 …失った事などない筈だと…己が思考を否定する…
 
 …これから先も…失う事等ないと…
 …己がきっと守るのだと…強く強く決意する…
 …しかし…それでも何処かで声がする…
 …この者達は運命に選ばれた犠牲なのだと…
 …この運命は変える訳にはいかないのだと…
 …この犠牲は必要なのだと…
 …些細な事だと…正義である必要などないのだと…
 …そうして…お前はそれを知っている筈だと…
 …声がする…
 …冷めた声が…
 
 ―そうして…
 はためく白い旗…立ちけぶる煙…踊る火の粉…己が看取った老爺の最期…

 …白髪白髭の老師の言葉…

 ―嗚呼…この事だったのかと己が内より…ただ漠然たる思いが出る―

                  …続く…