evoke one's recollections 《one's home》
 
 ―姜―1

 
 …誰かの話し声が聞こえる…
 
 「…もしあの子がそれを選べば…このままいけば…あの子は、重い運命を背負うことになる…」
 「そんな…どうして…どうしてあの子が…」
 「…済まない…やはり…私はここに来るべきでは…否、まだ間に合う!私がここを去れば…そしてそなたらが私の事など忘れ…平凡でささやかな…普通の人間の営みを…」
 「そんな…嫌です…なぜ…私達が別れなければならないのですか…あの日、私は言った筈です、あなたが何者でも構わない、一緒に居たいと…」                          
 「…私もそうだ…私達だけならそれで構わないだろう…私達が選んだのだから…だが…あの子は…私の存在があの子を…だが現在(いま)ならば、未だ天数は決していないと…父上が…」
 「…そんな…天数だなんて…お義父様は…一体…」
 「済まない…これ以上は…兎に角、私は此処を去る…そなたはあの子と人として生きていくのだ…」
 
 …遠ざかる足音…そして泣き崩れる母の声…
 翌朝…目覚めると、父の姿は何処にもなく、あれがただの夢ではなかったのだと知った…
 
 ―天界・火雲洞―
 「父上…ただいま戻りました…」
 「…そなたは…天界の則を侵した…故に裁かれねばならぬ…覚悟は出来ておるな…」
 「はい…」
 「神格封印の上、天界追放を申し渡す!」
 「…父上…」
 「ただし期限付きだがな…二・三百年程してほとぼりが冷めたら戻ってくるが良い…あまり長いとまた問題を起こすやも知れぬしのう…まあ…それまでは何処へなりと好きな処へ行くが良い…」
 「そんな…父上…それでは罰とは…」
 「…そう気に病むでない…此度の事など、かって我がしでかした事に比すれば、大したことではない故のう…」
 「…父上…有り難うございます…」
 「…礼ならば女カに言うが良い…あれが庇わねば、そなたは幽閉されるところだったのだ…」
 …そうして一礼し…去っていく息子の背を彼は見送った…
 
 ―地上―
 「…母上…あちらに綺麗な花がたくさん咲いておりました…行ってみませんか…」
 己を元気付けようとする我が子に微笑んでそちらに行くと、そこには色とりどりの美しい草花が咲いていた…
 花を愛でながらも…それでも彼女の顔は憂いを帯びていた…
 …考えるのは、別れ際に夫が言った我が子の事…もう会えないだろう夫の事…
 「あっ!!」
 考えを巡らしていると我が子の嬉しそうな声が聞こえた、何か珍しい物でも見つけたのだろうと思い、危なくはないかとそちらを見ると、そこには…
 「あっ…あなた…」
 そこには、いない筈の夫がいた…もう二度と会えないと思っていた夫が…
 「父上…何処に行ってたの!もう何処にも行かないよね…僕や母上を置いて何処にも行かないよね?」
 「ああ…ずっと…一緒だよ…」
 夫はそう言って優しく我が子の頭を撫でる…
 「…力を封じられて、追放されてしまったよ、ほとぼりが冷めるまで帰ってくるなとね…」
 そう言って夫はにっこりと微笑む。
 「それじゃあ…一緒にいてもいいの?」
 頷いた夫の顔は涙で滲んで見えなかった…
 
 ―天界・火雲洞―
 人界を一柱の神が見下ろしていた、薄く青みがかった、長い銀髪に紫紺の瞳、朱冠に紫衣を纏っていた。
 「青帝よ、そなたそこで何をしておる」
 「…雷帝様…下界を見ておりました…」
 「…そうか…何かそなたの気を引く物が下界にあったか…」
 「…はい…」
 「…なれば丁度良い…実はそなたらに人界に降りて貰いたいのだ…」
 「…我らが人界にですか?」
 「我ら天界神の出張は夫婦同伴だからな…本来ならそなたら二柱には天界にいて貰わねばならぬのだが…適任者がそなたしか考えられぬ故な…」
 「それならば我の半身を下凡させましょうか?」
 「いや…そなたら二柱で行って来るが良い…下凡では余計な時が係る故な…」
 「…分かりました…それでは雷帝様…行って参ります」
 そして青帝は一瞬だけ悪戯っ子の様に笑うと雷帝の極近くに寄り、雷帝だけに聞こえる様に何かを言った…
 
 青帝の姿が見えなくなると、雷帝は柱の陰にいた人物に話しかけた…
 「全く、我はどうもあれに甘い…幾つになっても我が子は可愛いという事かのう華胥よ…」
 「そうですわね…ところで我が君、あの子は何て言っておりましたの…ここには私達しかおりませんのに…意地悪ですわ」
 言外に知っていたんだろうにと華胥は言う。
 「まあ、そう言うな正装しておったし、私が最初にあれを青帝などと呼んだのだ…あれで…ある意味、あの時、あの場は正式にではないが公式な場となったのだしな…それにあれはただの意地悪でも無かろう…なにしろ総て計算ずくの確信犯だからな…」
 「…それであの子は何て言っておりましたの?」
 「『お心遣い有り難う御座います父上、母上にも宜しくお伝え下さい』あれはそう言いおったよ…」
 「…やっぱり…あの子は知っておりましたのね…」
 憮然として答える雷帝に華胥は嘆息して呟いた…
                                                       ―続く―
 ―あとがき―
 神話を基に書きました、伏羲と女カの過去絡みです、でも今回は女カは会話にしか出てきませんでした…伏羲はちゃんと出てますが、敢えて名前は出しませんでした…でも分かる人には分かるでしょう(*^_^*)
 ―用語解説―
 火雲洞=封神演技(講談社文庫)に出てくる天界三聖(伏羲・神農・軒轅)の住まい。この話し中ではまだ伏羲以外の三聖はいません。ですからこの話の中では天帝の住まいとしています。
 下凡=輪廻転生のようなもの、天界の神が何かの理由で地上に生まれ変わる事。
 天帝=秩序を司る天界の最高神格を持つ神々の事。火雲洞にて天数を定め、天命を発し、神をその役職に任命する(封神)
 人物紹介は、また今度…
 多分そうだろうという推測による私的設定がかなりあります…また、フィックションでしかもパロディだと割り切っている部分もあります…
 次回はタイトルの由来が分かるでしょう…多分ですけど(-_-;)
 それではまた(^_^)v