「…さあもう戻りましょウv…ロードv…あの子があの場所に戻ってしまった以上計画を練り直す必要がありまス…v…」
 『なにも解っていない』と馬鹿な『あいつら』を嗤った千年公が…心底残念そうに言う…
 …千年公の言葉に…僕は…『やっぱりアレンは行っちゃったんだ』とはっきりと改めて思い知って…
 …それでも…千年公の言葉に…まだ何か考えがあるんだと気付いて…僕は乱暴に服の袖で涙を拭い…頷いて千年公と共に『家』に戻った…


 
―11年前の『奇怪』―
              ―20―
 


 「…さあもう戻りましょウv…ロードv…あの子があの場所に戻ってしまった以上計画を練り直す必要がありまス…v…」
 言いたいことを言うと…『デブ』はそう言って俺達に背を向け…現れた時同様…その『扉』を潜り去って行った…
 「…ちっ…好き放題言いやがって…」
 …だが…『何も解っていない』…か…
 …確かに俺の考えは『推測』でしかないが…アレンのあの様子ではまず間違いない筈…
 …だとしたら…
 「…まだ…『何か』あるのか…?…」
 ボソリと呟き…俺が考えを廻らせていると…
 「…どういう…ことなんだ…?…アレンは消えるし…それに…」
 聞こえてきたのは…動揺しきったブックマンジュニアの声と…
 「…マリアン…ウォーカーのイノセンスが『ハートの鍵』だと言うのは嘘なのかい…?…」
 そして次いでティエドールの…探るようなその声…
 「…嘘ではない…少なくとも俺はそう聞いていた…」
 探るようなティエドールの言葉に…俺はティエドールを見遣りそう告げると…
 「…情報源はマナ・ウォーカーか…クロス・マリアン…ノアを裏切ったノア『マナ・ウォーカー』が情報源か」
 今度はブックマンが重々しい様子で問うてくる。
 「…ノアを裏切ったノア?」
 ブックマンの言葉に怪訝な顔をするティエドールに…
 どのみち話すつもりだったと考え…
 「…そうだ…アレンの養父は伯爵を裏切り、かって伯爵の手元にいたアレンを伯爵の元から連れ出し、その記憶を封じて育て…そして俺に託した…」
 頷いてブックマンの言葉を肯定し…アレンの『過去』を話す…
 「…ウォーカーが伯爵の手元にいたと…?…」
 俺の言葉に聞き返してくるティエドールに、俺は頷き…
 「…そうだ…そしてその記憶の封印は方舟で解けたらしい…だからこそあいつは自分をノアだと言った…」
 先刻の問いの答え…アレンが自分をノアだと言った理由を告げ…
 そして俺は話し始める…
 「…10年…いや…いまからおよそ…『11年前』になるか…イギリスの片田舎の村である奇怪現象が起こった…」
 …約11年前に…教団に報告された『ある奇怪現象』の話を…
 「…奇怪現象?」
 問い返すティエドールに頷き…
 「…そうだ…そしてそれを調べに行ったファインダー達は…そこにあったイノセンスは伯爵に奪われたと…伯爵が高笑いと共にメッセージを残していたと…そう報告した」
 そして俺は…当時『伯爵がメッセージを残した』と言う、その特殊性故に教団内で話題となった『奇怪』の報告内容を告げる…
 …恐らくその特殊性故…ブックマンは知っているだろうし、ティエドールも憶えているだろう…
 そう考えて簡潔に告げる…
 「…伯爵の…メッセージ…?…11年前…イギリス…もしかして…マリアン…」
 そして思った通り…ブックマンが僅かに目を瞠り…ティエドールが瞠目して言う…
 「…やはり覚えていたか…そうだ通称『悪魔の子』と呼ばれた奇怪現象…その時奪われたイノセンスこそが…『アレン』だ…」
 ティエドールの言葉に…俺は頷き…その『奇怪現象』の通称を告げて…その時奪われた『イノセンス』こそが『アレン』だと告げ…
 …何故『アレン』が伯爵の元にいたのか…『その疑問』について教えてやった…

 ―口々に『どういうことかと』動揺も露わに騒ぎ出す連中に…俺は思う…

 …これじゃあ…『過去を思い出した』アレンが…逃げちまうのも当然か…と…そう考え…
 「…『奇怪』として噂になった『悪魔の子』こそ『アレン』だと…そう言ってるんだ…」
 取り敢えず嘆息混じりにそう告げ…
 「…アレンも行っちまったし…もうここには用はない…」
 そう言って…詳しい話は教団に戻ってからだと告げ…

 そうして俺は…約4年ぶりに…『大嫌いな教団本部』へと戻ることになった…

                                            ―終わり―