REMINISCENCE―0―


 ―仙界・崑崙山・玉虚宮―
 「奇妙な子供?」
 原始天尊は、己の片腕である燃燈道人にそう聞き返した。
 「はい、先日、人界に赴きました折りに見かけたのですが……」
 燃燈道人はやや戸惑いながら続ける。
 「……その子供は仙人骨が有るようだったのですが、どうも魂魄が何か不安定な様なのです……」
 「魂魄の不安定な子供……」
 原始天尊が眉を顰める……
 それから数日後、原始天尊は人界に降りその子供に出会う。
 その子供は確かに奇妙な子供だった。
 その子供は廃墟となった村の跡にたった一人で暮らしていた。
 「儂の名は原始天尊という、お主の名はなんというのじゃ」
 「……王奕……」
 「何故お主は」そう言いかけた時だった。
 「あなたは仙人様なんでしょ、だったら知ってるんじゃないですか?」
 この言葉に原始天尊は目を見張る。
 「戦が終わって、生き残った人達は村を移動させました」
 王奕は淡々と続ける……
 「僕の家族はみんな戦で死にました、生き残ったのは僕一人です、でも誰も僕みたいな気味の悪い子は要らないから、だからこの村に……」
 王奕の声は徐々に小さくなっていった……
 そんな王奕に原始天尊は大方の事情を悟り、内心で都合が良いとほくそ笑んで、声をかける。
 「王奕、お主には仙人骨がある、儂と共に来ぬか?」
 俯いて、泣きそうになっていたのであろう王奕が顔を上げる。
 「それって、仙人様になるってこと?あなたは、僕が気味の悪い要らない子だと思わないの?」
 王奕は判らないのではなく、戸惑っていた、そして確認の為に問いかけたようだった。
 「お主はとても頭が良い様だのう、それは素晴らしい事じゃ、後数年も経てばお主は仙人界の宝となろう……」
 その言葉は幼き頃より周囲から疎まれ続けたであろう王奕に仙人界行きを決意させるには充分な力を持っていたのだろう……
 「僕を連れて行って下さい……」
 王奕は静かにそう告げて、手を出した。
 
 この日より数年後、王奕は魂魄を分裂された後に、その半身は、楊ゼンとの交換のために金鰲へと送られることになる……
  ―つづく―