―アスマは白い扉をノックした…
「…入るぞ…カナリ姉…」
…そう言って扉を開けてその部屋にアスマは入る…
…その部屋には一人の女性がいた…
…ベッドに横になっていた…
「……アスマ君…」
そう虚ろな…力無い声で呟くと…彼女は起き上がり、アスマの方を虚ろに見つめてくる…
母子哀歌―序―
…カナリ姉…随分変わっちまったな…
…まあ尤も…『あんな事』があったんだ…無理も無いか…
…それに…『あの頃』に比べりゃ…マダマシか…
アスマは…幼き頃から姉の様に慕っていた親戚の女性を変えてしまった…6年前の『事件』を思う…
「……アスマ君?」
ボーっとするアスマに…訝しんだのか、カナリは声を掛ける…
その声にハッとしてアスマは顔を上げ…
「…あっ…ああ…済まない…ちょっと考え事をな…」
…アスマの声はどうしても暗くなってしまう…
(…チッ!何をやってるんだ!オレは!彼女の前で『あの時の事』を考えちまうとはっ!)
内心で舌打ちし、しかしそれは表に出さずアスマは口を開く…
「…それより!カナリ姉今日は『あいつ』を連れてきたぞ!!」
そう言いアスマは己が背後を指す…
アスマのその言葉にカナリはハッとし、慌ててベッドから出る…
その様子にアスマは笑みを浮かべながら、扉の隙間から廊下に顔を出し、其処にいる相手に声を掛ける。
「オイ!早く入って来いよ!」
廊下には一人の幼い少年がいた…
…年の頃は4・5才位…実際は後数ヶ月で6才になる(…他人より少々生育が悪いらしい…)金髪碧眼で黒い…要所要所に『渦巻』印と『木ノ葉』印のあしらわれた着物を着た少年…里の戸籍には『うずまきナルト』と記される少年が立っていた…
「…アスマ兄ちゃん…大丈夫?」
ナルトは普段はしっかりしている…既に非公式だがナルトは暗部で働いていた…普段は…演技をしていない時のナルトは…ただ淡々と…冷静に…振る舞う…その様は『何も知らない者』であれば感情の無い『人形』の様だと評す程のモノである…
…尤も…素のナルトを知る者で事情に詳しくない…『何も知らない者』などそれほどはいない…
…そういう者は皆ナルトの素性はおろか実年齢も素顔すら知らない…ただ暗部の任務で一緒だったというだけの者である…
…親しい者達の前ではまた事情が違う…
…負の感情こそ最近は滅多に表に出さなくなったが…
…ごく稀にこうして僅かだが…表に出す事がある…近しい者達には…
…そしてアスマの様にナルトが生まれた時からずっと傍にいた人間には、いくらナルトが感情を隠すのが巧く日常から演技していると言っても…
…そんな状態では感じ取れるのだ…
…不安そうな『感情』の揺らめきを…
…其処にいるのは『人形』等ではなく…極普通の『子供』だった…
…少し所でない『特殊』な事情の為に…『早熟』ではあれど…
…少なくとも『こんな時』のナルトは…アスマには極普通の『子供』にしか見えなかった…
…アスマはナルトの『事情』を全て知っている数少ない人間だった…
…ナルトが背負う『それ』はアスマにしてみれば、子供たった独りで背負うにはあまりに『重すぎるモノ』だと思っていた…
…そして…こんな時は尚の事この『子供』が…哀しく愛しかった…
…何故なら…
…其処にいるのは『母親』を心配するただの『子供』でしかなかったから…
「…大丈夫だ!今日のカナリ姉は落ち着いてる。…ホラ!あの事を話すんだろ!」
アスマがそう言って促せば、ナルトは頷いて部屋へと入った…
扉を開け入ってきたナルトの姿にカナリは目を見開き、嬉しそうに微笑みを浮かべてナルトに近付き…
「…ああ!…来てくれたのねナルト!」
…優しく愛おしげに抱き締める…
「…カナリ姉…ナルト…オレは外に出てるぞ!」
微笑ましそうに暫し見つめた後、アスマはそう言うと踵を返し部屋を出ようとした…
「…アラ…アスマ君…もう?」
カナリが不思議そうに聞く…
「…久し振りに会うんだろ、母子水入らずにしてやるって言ってんだよ!」
そう言ってアスマは後ろ手に手を振りながら部屋から出て行った…
「……母様…ごめん…あの…忙しくて…」
滅多に会えぬ母親に抱き締められナルトは嬉しそうに笑んだ。
「…良いのよ…来てくれて嬉しいわ…あなたは次代の『渦巻』家の『当主』なんですもの…忙しくて当然…それに『当主』であるお父様が…本来はなる筈じゃなかった…火影になってしまったんですもの…だからあなたはお父様がこなせない『当主』の役目を『時期当主』として果たさないといけないんですものね…」
ナルトの頬を撫でながらカナリはにっこりと優しい笑みを浮かべる…
「……うん…」
幸せそうに微笑みを浮かべるカナリの姿に…ナルトは必死で胸に湧く不思議で複雑な『何か』を堪える…
…ナルトはその『何か』が『感情』というモノである事を知らない…
「…ねぇ…ナルト…あの人は…お父様は…お元気?…私…なんだか…最近…あまりあの人に会って無い様に…思うの…その所為かしら…なんだか…悪い夢を…見ることもあるみたいだし…」
虚ろな眼差しで宙を見るカナリにナルトはハッとした様に目を見開き…
「…か…母様!それは悪い夢だよ!母様はご病気だから!気が弱くなっちゃって…それで…父様はお忙しいみたいだけど、元気だよ!僕も最近は色々お手伝いしてるんだ!…ああ!そうだ!僕ね6才になったら正式に特別上忍になって『火隠し』として父様を手伝う事になったんだよ!この前じいちゃんと父様がもう良いだろうって!それにこの春からアカデミーにも通い始めて…だから友達も出来たんだ!」
慌てた様にナルトは一気に捲し立てる。
「今日は元々その報告に来たんだ」と…
…そう捲し立てている間…ナルトは気付かれない様に…こっそりと印を組みカナリに術を掛ける…
「…そう…よかった……」
ナルトの術が完成すると…カナリはそれだけ呟き…穏やかな夢の中へと落ちていった…
「……ごめん…母様…」
…ナルトは一瞬だけ泣きそうなに顔を歪めたが…すぐに表情を消し…大の大人であるカナリをまだ幼い子供であるナルトがベッドへと抱き上げて移すと…ゆっくりとその部屋=木ノ葉病院・特別病棟の一隅にある…その病室からナルトは出てアスマの所へと向かった…
…アスマはといえば…
…病室を出た後…病棟の外の中庭に出て、その中庭にある木々の中にある一本の木の上に立って、其処から病棟の様子を窺っていた。
…『何か』があった時…すぐに対応出来る様に…
…アスマは樹上から病室の二人を見守っていた…
…不意に病室で異変が起こった事に気付き、悔しそうに歯軋りする…
…その時…病室ではカナリの身に異変が起こっていた…
…その様子を見て、アスマは…
…奥歯を噛み締め、拳を握りしめ…
…そして己を責めた…
…チィ…何をやっているんだ…オレは…彼女の前で『あの事』を…幸い今回は彼女がそれほど強く『感じ』取らなかった様だが…彼女にも『あの能力(ちから)』があるんだ…それなのに!
…彼女はあの『一族』の遠縁だ…『一族門下』として…また次代『奥継』の『母親候補』として幼い頃から『渦巻』の『家』で『特別』に育てられているから『血継限界』の方は兎も角『秘術』の方はしっかり使える…イヤ…使えたと言うべきだな…現在(いま)の彼女には…昔の様な『制御能力』は無いから…だから…『あの事件』の後…『暴走』して…現在(いま)彼女は…『こんな風』になってしまったのに…
…今回はナルトが傍にいたからすぐに対処出来たが…そうでなきゃ今頃は…
…下手すりゃ…『あの時』の…二の舞だった…な…
…完全には無理かもしれねぇが…
…折角…大分…回復したのに…
…もう一寸で…
…台無しになるところだったな…
「……アスマ兄…母様は…直らないのかな…」
…いつの間にか…ナルトがアスマのすぐ隣に来ていた…
「…ナルト……済まない…」
「…アスマ兄は悪くないよ…母様が…術の制御に失敗したから…」
…ナルトが笑みを浮かべて言う…尤も多少ぎこちない笑みではあるが…
「…アリガトよ…だが…無理するな…せめて…泣け…たまには子供らしく…な…」
…やりきれない想いを抱いてアスマは言う…
「…なんで?なんでオレがいま泣くの?…アスマ兄…」
「…ナルト…」
…アスマはナルトにそのやりきれない想いを伝える様に強く強く抱き締めた。
―続く―
―あとがき―
どうもRINですm(_ _)m
オリキャラ登場です!
これは一応S・DシリーズのIf企画設定になります。
題して!『もしもナルトのお母様が生きていたら!』という設定です。
お名前は、いつきカナリ様。一応公的には三代目やアスマの猿飛一族とは親戚で、四代目火影婦人…で表向き生まれてすぐ息子が死んだ事になってる悲劇の母(…実際夫の命を代償に、子供を犠牲にされ続けている不幸なナルトの母…但し九尾封印については一応納得済み…)
…極限の状態でも冷静に判断できる筈の忍の里の住人が…負の感情に振り回されて現実が見えなくなる程愚かだとは、思っていなかった為…
…本当の素性は…やはり猿飛家とは親戚で、『渦巻』家直系とは遠縁、分家と親戚で『木ノ葉の奥』『隠し目付衆』一門に一応属する。
階級は上忍で、年齢は四代目より一つ下。
知る人ぞ知る(…主に暗部や里上層部や『木ノ葉の奥』など…)凄腕のくノ一でしたが…『とある事件』を切っ掛けに立て続けに起こった『様々な事件』と『積み重なった心労』と『持ち前の能力』の『高さ』がかえって災いして…『とある病気』になってしまい…現在極秘入院中となっています…
…その為…ナルトは一緒に暮らせないし、たまにしか会えない…
…ちなみに生きてることも殆どの人は知らない…
…極一部だけ…四代目の弟子であるカカシでさえ知りません…
…と言っても…カカシはナルトの実力も知りませんけどね…
…なんか…設定一杯書いてしまいました…一応本文中で書いた事のフォローのつもりです…詳しくはまた後日どこかできちんと…
―それではまたの機会に―RIN―