「…あなたには…迷惑でしょうね…死者と似ているなどと…済みません…」
 そう言って『彼』は一輪の小さな花をその手に取り…哀しげに…儚げに…微笑う…

 …その花に…そして『彼』が言った『言葉』に…心が揺れた。

 ―そして…『アレン』の頬を涙が伝った。
 
 
 
―羊が抱えるパラドックス―
              ―10―
 


 「……大切だったんですね…その人が…とても…」
 そう呟く『アレン』の頬を涙が伝う…

 「…………はい…とても…」 
 とても哀しげに『アレン』の目の前にいる『そのヒト』は頷く。

 …オレだって愛していた。とても…

 …『あの頃のオレ』にとっては『このヒト』こそが…

 …だけどっ…!…

 「…頭に…霧が掛かったみたいで…よく解らない…」
 …なにもかも忘れていた『オレ』の『記憶』。

 「…し…師匠…いったい…これは…」
 思い出した時…『オレ』を育ててくれた師が血だらけで『オレ』の傍に倒れ、そして共に育った親友(とも)と惹かれていた女性(ヒト)が傷だらけで少し離れた所に倒れていた。

 …思い出したのは…『オレ』が『中央庁』と『ある契約』を交わした『エクソシスト見習い』だったと言う事だった。

                                       ―続く―