「そうだあれは封神計画の話だ」
 
 計画が進むにつれ、徐々に半身の心に芽生え始めていた不安と疑惑…
 己が半身との邂逅によって…それは更に深まり…
 半身との魂の共鳴を感じ取り、その心は不安定に惑い始めていた…

 …このままでは危険だ…
 そう思った…
 だからこそ私は太公望の前に姿を現したのだ…


 
―垣間見えし真実―《後編》


 振り向いた太公望の目の前に映ったのは宙に浮く王奕と呼ばれた少年の姿だった…
 
 「おぬしは…おぬしが王奕なのか…原始天尊様の一番弟子の…」
 「そうだ」
 太公望は思った…王奕は道士の筈だと…自分と同じ…原始天尊の一番弟子で…だがまだ道士の筈だと…
 …何故だ…
 それなのに…王奕は宙に浮いていた…
 …王奕は宙に浮いておるのだぞ…
 宝貝も無く霊獣の助けも無く…
 …なのに…何故…
 太公望は混乱していた…
 …何故わしはそれを当然の様に受け止めておる…
 …自分が驚いていない事に…

 「おぬしは封神計画を知っているのか?」
 太公望の瞳は困惑に揺れている…
 しかし混乱しながらも尚太公望は己を失ってはいない…
 その様子に王奕はこれならば大丈夫だと思う…
 
 「太公望よそなたの片腕たる通天教主の子息と我が半身たる王天君の交換を命じ、計画の遂行者にそなたを指名したのは私だ…」
 「おぬしが…何故…」
 太公望の問いには応えず王奕は続ける…
 「魂魄分裂…太公望よ…原始天尊よりそなたは既に聞いておろう…私は分裂前の王奕…その人格だ…」
 「その王奕がわしに一体何の用があるのだ?」
 太公望は自分をここに呼んだのは王奕であると確信する。
 「私が用があるのではない」
 「どういう事だ?」
 「そなたが私を呼んだのだ」
 間違えるでないと厳かに云う…
 「わしが?しかしわしはおぬしを知らぬ!おぬしが呼んだのではないのか!」
 「そうとも言える…だがそなたは私を知らぬのではない…」
 王奕の奇妙な言葉に太公望は眉を寄せる…
 「どういう事だ!わしは王天君は兎も角おぬしは…おぬしの事は知らぬ…」
 「そなたは忘れておるだけだ…そなたもそして王天君も…」
 王奕の言葉に再び太公望は眉を寄せる…何故ここに王天君が出てくるのかと…
 「計画は私が原始に命じて発動させた…そなたら二人を遂行者とするようにと…」
 「なっ!」
 王奕の突然の告白に太公望は目を剥く…
 「自然に事を運ぶ為にそなたらに憎しみを植え付け、その憎しみを原動力とさせるようにと…」
 「おぬしは…一体…」
 「封神計画の総ては私が企てた…封神台とは計画の途中邪魔になる者達を一時入れておく為の場所であり、真の目的達成の為の最後の切り札でもあり、そして計画終了後の仙道達の新たな住まいだ…」
 「それは一体…どういう‥」
 「私はそなたに呼ばれた…私はそなたの疑問を解消すべくここにいる…」
 太公望はその言葉で、王奕の先刻の問い掛けに対する、答えの意味と先程からの言葉の意味を悟る。
 「王奕よ…おぬしは総て自分が原因だというのだな…総ておぬしのせいだとしていまは迷わず計画を進めろと…」
 太公望は落ち着いた眼差しで真っ直ぐに王奕を見る…
 王奕はその様子を見てとると…太公望の問いには答えず…
 「そなたは封神台の中にいつでも入る事が出来る、必要ならば他の者も共に連れていける、一度入ってみると良いだろう…」
 そう言ってその場から姿を消し…次の瞬間には太公望は元の老子の夢の中に戻っていた…

 「まっ!待て!戻れ!わしはまだおぬしに聞く事があるのだ!」
 突然消えた王奕に、太公望は慌て、明後日の方向を向いて叫き立てる!
 恐らくはその様子が五月蠅かったのだろう…
 ポカッ!
 太公望は突然殴られ、振り向くと其処には老子がいつもよりも幾分不機嫌そうな顔をして宙に浮いていた。
 「ろ…老子…どうしたのだおぬし…もしかして怒っておらぬか…」
 「太公望…あなた少し五月蠅いよ…」
 「うっ!!」
 太公望は老子の常には感じられぬ迫力に思わずたじろぐ…
 「すっ、済まぬ!今度からは気を付けるから…」
 「そう…ならいいけど…それじゃ…」
 そう言ってまた眠ろうとする老子を慌てて引き止める!
 「まっ!待て老子実はおぬしに聞きたい事が…」
 「もう〜なに?もしかして王奕の事?だったらいまは聞かない方が良いよ…」
 「何故…否…おぬしは何でも分かるのだな…」
 「…別にそう言う訳じゃ無いけど…でも…あなたは王奕に会ったのでしょう…その上であなたが王奕について私に聞くのなら…それは王奕があなたにあえて語らなかった事位だからね…」
 「では…やはり…わしと王奕は…王天君には何か関わりがあるのだな…」
 「太公望…いまはその事は忘れて…兎に角自分の為すべき事だけに打ち込むべきだよ…」
 それだけ言うと老子もまた、その場から姿を消した…

 「いまは…忘れよ…か…そうだな…いまは…忘れて少し休むか…」
 太公望は嘆息して呟く…そうして再び横になり、夢の中で眠り始める…
 あれほど揺らぎ…荒れていた心も…理由はともあれその不安も疑惑もいまは落ち着き…太公望は穏やかに眠る…

 そんな太公望を宙に浮いて見守る2つの陰…
 
 「王奕…あなたにまた会う事になるなんてね…」
 「太上老君…太公望の記憶は封じておくゆえ…後の事は宜しく頼む…」
 「…荒療治が過ぎたのかい…」
 「そう言うわけではない…計画を違う事無く遂行する為だ…」
 「そう…分かったよ…それじゃあ…また…ね…」
 そう言いながら太上老君は眠り…
 王奕は…太公望の額に手を瞬間翳し…そして…空間に融ける様に姿を消した…

 「う〜ん…何か随分と長い間夢を見ておった様な気がするが…思い出せぬ…何か封神計画に関わる様な重要な内容だった様な…思い出せぬ…が…まあ良いか…修行…修行…」
 暫し経って目覚めた時…太公望はほぼ総てを忘れていた…
 「しかし…何か不思議とすっきりしておるのう…もしやわしは…相当疲れておったのかのう…」
 総てを忘れて…しかし落ち着いた心はそのままで…太公望は再び起きあがり…太極図を使いこなすべく、再び修行の為、特訓君に立ち向かうのであった…
 
                   ―終わり―
 ―あとがき―
 遅くなって申し訳ありません<(_ _)>
 そしてリクエスト有り難う御座います。
 近日中にとか言っておきながらこの体たらく…真に申し訳ありません<(_ _)>
 それにしても今回は前編・中編と比べて、随分長くなってしまいました…
 おまけに話しは…もう太公望の心の中同様混乱していますし…
 それでは…詰まらぬ物ですが…取り敢えずこれを送らせて頂こうと思います…ご不満があれば仰って頂ければ、時間は掛かると思いますが書き直しを致しますので、どうぞ遠慮せず仰って下さいm(_ _)m

 ―それではまたの機会に―RIN―