―ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪
「…おい電話が鳴ってるぜ!」
『研究所(ラボ)』内にけたたましく鳴り響く電話(ベル)の音に『作業』を行うその手を休めることなく、顔さえ上げず、長い赤い髪の青年がそう声を上げる。
―ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪
…しかし電話は延々と鳴り続ける。
「おいっ!電話だってンだろっ!オレは今手が放せないんだっ!」
流石に何時までも鳴り続け、誰も取らないことに、青年は訝しく思ったのか、それとも単に苛立ちを覚えたのか、青年は顔を上げ、そう叫ぶ。
―ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪
…しかしやはり電話は止まず…また『所員』の誰からも応えは無かった。
―虫の報せ―
―1―
―ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪
「おいっ!マリアっ!アルッ!マナッ!おいっ!」
気心の知れた同じ研究班(チーム)の仲間の名を呼ぶ。
…しかし誰からも返事が返って来ない。
返事が返って来ないことで、青年はふとあることに思い到る。
「…そう言えば…アルの奴フィールドワークに出るとか言ってたか…?…」
…と言うことは…
「…まだ帰ってきてないのか…?…」
…資料室に篭もり過ぎたか…?…
「…だがあいつが帰ってきてないのなら…マナが来てないのも奇妙しくはないな…」
そう呟いて…
―けれどでは後もう一人…マリアはどこかと考える。
…確か…さっき自分の元に食事を運んできたのにと…
―ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪ジリリリリーン♪
…しかし…何度名を呼ぼうと、どれ程電話が鳴ろうと誰かが出る様子は無い。
―仕方なく青年は舌打ちをし、席を立った。
―続く―