ペルソナ―T―

 ―正義である必要などない―
 
 玉虚宮の最奥、最も結界の強いその場所にその少年はいた。
 彼の名は王奕、何時の頃からかこの崑崙にいる、原始天尊と燃燈道人以外は滅多に会うことがない道士…
 原始天尊の一番弟子という仮初めの姿で正体を隠して、彼はいま長年温めてきた計画を実行に移そうとしていた。
 
 八卦を描き天数を見定める、此度の「歴史の流れ」を見る為に……
 「歴史の道標の望む歴史」との細かな差異、女カが直ぐには気付けずに見逃してしまう、しかし致命的な差……
 女カは天数を知らない、あれにはその力はない。
 「あやつは完全を求めている、しかし細かな所は知らぬ、ただあやつの知り得る史実の通りにしようとしているのだ」
 部屋に入ってきた原始と燃燈を振り向いて続ける。
 「そこを突こうと思う…」
 「どういう事だ?」
 訝しげに燃燈が問う。
 「此度の歴史は実によく似通っている、現時点に於いては…」
 「王奕…なにを?」
 今度は原始が問う……
 「千五百年程後に微妙な、しかし致命的なズレが生じる、だがそれを感知する力はあれには無い、それを逆手に取ろうと思う…」
 「それは…本当に上手くいくのか…」
 「原始よ上手くいくのではない、いかせるのだ」
 そのように弱気では困ると笑う。
 「それで王奕よ、その致命的なズレとは一体なんなのだ?」
 「殷周革命の軍師となる者が戦に巻き込まれ、赤子のうちに死ぬ」
 「なっ!王奕!まさか!!」
 燃燈が声を荒げる、一気に室内気温が上昇する。
 
 「それがその赤子の運命だ!!」
 そうきっぱりと言い切る王奕に燃燈は歯噛みして出ていった。
 「王奕よおぬしは本当にそれで良いのか?」
 燃燈の背を見つつ原始天尊が問う。
 「原始天尊様、約千余年後、僕は崑崙を去る事になります、戻って来る時には僕は僕であって僕ではない、それでも僕の行うことは、総て僕の意志なのだという事を忘れないで下さい……」
 王奕のその言葉に原始天尊は何も言えずに、ただ部屋を辞した。