ペルソナ―Z―

 牧野にひっそりと佇む小さな牧場に住んでいたのは主に羌族の者達だったが、この牧場にはよく異民族の者達の出入りがあった。
 ここは最近、呂望とその友人達の手によって密かに造られた牧場だった。
 呂望は他の羌族や異民族にも顔が利き、敵対する民族の中にも協力者を持っていた。
 彼等は呂望の高い理想に賛同し彼に協力していた。
 そんな協力者の中に殷王朝に顔の利く者や交易に携わる大賈(たいこ)達がいた。
 彼等のコネで、呂望はこの土地を買い、朝歌で肆(みせ)を持つ賈人(こじん)という仮の立場を手に入れていた。
 呂望は普段は呂の村に居るため、この牧場と朝歌の肆は通常は人に任せていた。
 
 そんなある日のことだった。常ならば事前の連絡を怠らない呂望が、沢山の羊の群を引き連れて突然に訪れた。
 「呂望様、突然どうなさったのですか?それにこの羊たちは…」
 呂望を出迎えた少年は戸惑いつつ問うた。
 「村が襲われた…僕が羊の世話の為に村から遠く離れていた時だった…」
 呂望は淡々と告げる。
 「僕はこれから孤竹に行こうと思う…生き残った者がいたならば、皆孤竹を目指す筈だから…」
 「呂望様はどうなさるのですか、お志は…」
 不安げに問われて、呂望は安心させる様に微笑みを浮かべる。
 「大丈夫、僕は必ず帰る…だが時間はかかるかもしれない…」
 「そうですか…」
 ホッと安心したように息を吐く少年の頭を撫でてやる。
 「この羊たちと此処を頼む、直に朝歌や他の邑からも連絡があるだろうから、僕は無事だと、今迄通りにと、皆に伝えて欲しい…」
 そう言って呂望は羊を牧場に入れると、支度を調え、その時、牧場にいた全員に声を掛け、旅立った。
                                ―つづく―
 ―あとがき―
 済みません、ちょっと短いです、今回、主に参考にしましたのは文春文庫の王家の風日と太公望そして侠骨記です(宮城谷昌光氏・著)次回はついに原始天尊登場、普賢の登場が間に合うかどうか…微妙な所です…孤竹編は長くなるので別に書きます…