ラプラス―1―

 「御主人、西岐に着いたっスけど、一体これからどうするっスか?」
 「うむ、とりあえずは……」
 太公望は珍しく真剣な面もちで言う。
 その言葉に、四不象が息を呑む。
 「とりあえずは?」
 「…腹が減ったのう…」
 「…御主人……」
 四不象は溜息を吐いた。
 
 太公望が西岐に着いたその日、姫昌は「霊台」に赴き、泊まった。
 三更の鐘を聴いてから間もなく、姫昌は、跳び起きて、大声で人を呼んだ。
 声に驚いて、武器を手に駆けつけた家臣達に姫昌は告げた。
 「夢の中で、翼をつけた熊が、寝台に飛び込んできた。天が大賢人を西岐に遣わした兆しに違いない」
 興奮の面もちで喜色満面と言った所である。
 「おめでとうございます。きっと、われらが太公が待ち望んでおられた西岐の大棟梁となられるお方に相違ございません」
 と散宜生も目を輝かせて言う。
 「その昔、殷王朝中興の英主、高宋は同じく飛熊の夢を見て版築の場で賢人・傅説を得たという。我々も山野を踏破してお捜ししよう」
 姫昌のこの言葉によって西岐を上げての賢人捜しが始まったが、それらしい情報は一向に集まらなかった。
 一方、太公望は占い屋で金を稼ごうとしていたが、まるで客が来なかった。
 「御主人、姫昌さんに会わなくていいっスか?御主人の使命は妲己を倒し姫昌さんを次の王にする事っスよ」
 「まだだ!物事にはタイミングというものも必要なのだ」
 四不象の問いに、太公望はただそう答えた。
 ―つづく―
 ―あとがき―
 今回の参考資料は主に講談社文庫の封神演技です。パラレルです実はこの話ある話しとリンクしています…