―薄暗い部屋で…老人と黒衣を纏い薄紅の狐面を着けた子供が向かい合って座り話をしていた…
 「…いつも済まぬのう…ユイ…今度こそ合格させてやりたかったのだが…」
 老人は辛そうに顔を歪ませて子供に言った…
 「…じいちゃんの所為じゃない…それに…今度の試験受からぬ方が任務の上でも都合が良い…」
 ユイと呼ばれた子供は…子供とは思えぬ程落ち着いた声で淡々と言った…
 「…しかし…わしは今年こそはと思うておったのじゃ……それに…『例の任務』の為には今年卒業しておいた方が都合が良いであろう…どうするつもりじゃ…」
 「…じいちゃん大丈夫だよ…それはちゃんと考えてある…上手くいけば卒業は出来るし…出来なくても大して問題は無い…任務に支障は来さないよ」
 …「だから安心して」と子供は最後にようやくホンの少し子供らしい声で言った… 
   

 
∞螺旋の運命×運命の螺旋∞
             ―序―



 ―大きな巻物を抱え…暗い森の中…金髪の少年が木にもたれる様にして座っていた…
 …片膝を立て俯き、泥だらけで座るその姿は…
 …ただ…ごく普通の少年が、疲れ果てて座り込んでいる様にしか見えないだろう…

 …だが…実の所事実は違った…

 ―少年の名は『うずまきナルト』…
 …火の国にある忍の隠れ里『木ノ葉隠れの里』の『忍者学校』通称・アカデミーの最終課程に籍を置く生徒=忍者候補生であり…先日三度目の卒業試験に落ちた為に落第を余技なくされたという…世間で言う所の…所謂『落ち零れ』という存在だった…
 …ナルトの成績は…あらゆる意味で『ドベ』と呼ぶに相応しい物だった…
 …それはもういっそ見事な程に…
 …体術と変化の術は比較的得意な様だったが…
 …それでもそれは決して特別に抜きん出ていると言う程の物でも無かった…
 …そしてそれは卒業試験でも遺憾なく発揮され…
 …ナルトは卒業試験に落ちた…
 …しかし…それには『ある幾つかの理由』があった…

 …一つは里の『大人』であれば誰もが知り得るモノであった…
 …それはナルトが『極一部の例外』を除き『殆ど総ての里人』から憎まれ、嫌悪されている…
 …その為にナルトの卒業試験が公正な形で行われた試しが無いと言う事だった…
 …試験の合否を決めるのはその受験生を受け持つ担任の役割だった…
 …この年のナルトの担任は『うみのイルカ』…
 …彼は比較的ナルトに対し好意的な人物であり、他の教師に比べれば…教師として余程公平な人物であった…
 …だから…ナルトは今年ならば卒業できても奇妙(おかし)く無かった…
 …だが…卒業試験の課題はナルトの苦手な忍術として有名な『分身の術』であった…
 …実の所…(…イルカは知らない事なのだが…)ナルトの試験課題が分身の術となるのは今回が初めてでは無かった…
 …そう…実に三年連続…詰まる処…三回連続でナルトの苦手な術がナルトに試験課題として出されていると言う事である…
 …そしてイルカにも…ナルトに対する複雑な気持ちが有った…
 …それは…大多数の里人の持つ『憎悪』という感情とも、また少し異なるモノであったが…だがイルカはそれの正体が何であるのか…自分がナルトをどう思っているのかを真実(ほんとう)の意味でその時まだ知ってはいなかった…
 …その為卒業試験で『不完全な分身』しか出来なかったナルトに対し…同僚で、同じく試験管の立場にいたミズキの取り成しがあっても尚厳しい対応を行い…
 …その後落ち込む様子を見せるナルトに対し優しい言葉を掛ける事すらしなかった…
 …普段のイルカであったならば…落ち込む生徒に対し何らかの対応をしフォローを怠りはしなかっただろう…
 …事実イルカは…卒業試験の前日…「家に帰っても誰もいない」と寂しげに言ったナルトに対し…夕食にナルトの好物のラーメンを奢っていたのだから…
 …そしてこれらの事からも…イルカのナルトに対する複雑な思いは見て取れた…

 …だが…

 …里人やイルカ達の知らない『真実』が別にあった…

 …そしてそれこそが…ナルトが卒業試験に合格出来ない…
 …否…合格しない…本当の理由だった…

 …そう…ナルトは合格出来ないのでは無い…合格しない…する気が無いのだ…
 …否…ある意味では…合格出来ないと言うのも正しいだろう…
 …何故ならナルトは合格する訳にはいかない立場にあったからだった…

                                  ―続く―