神よ…。
この三人の迷える子羊達をお救い下さい―――…。
【アレンの場合】
僕には悩みがある。
僕はれっきとしたノアの一族。でも今居るのは敵であるエクソシストの本拠地・黒の教団。
何故そんな所に居るかって?
それは僕がノアでありながらイノセンスにも選ばれた稀な存在だから。千年公の命令で、スパイとしてこの黒の教団にやって来たのだ。
初めは千年公の命令さえあれば、いつでもエクソシストや教団の幹部を殺してやろうと思っていた。エクソシストや人間なんて大っ嫌いだったし、エクソシストを見る度に僕の中のノアが疼いた。
でも……、一ヶ月二ヶ月半年と彼等と共に過ごす内に、僕は完全に彼等に情が移ってしまった。
僕のことを疑いもせずにいつも暖かな笑顔で迎えてくれ、僕がピンチに陥った時は自分の身を挺して助けてくれた。
何故他人の為にそこまで出来るのかと聞いてみたら、「仲間だから」と簡潔で、それでいて極当たり前の答えが返ってきた。それは、誰に聞いても同じだった。
そんな優しい彼等を殺すことなんて出来ない。裏切れない。
かと言って、千年公や他のノアを裏切ることも出来ない。彼等も、僕の大事な『家族』だから。
いずれは千年公から『家』に帰ってこいという命令が下るだろう。それは同時に、『エクソシストを殺してこい』ということ。
その時、僕はどうすればいいんだろう―――…?
「……はぁ…」
「アレン君、どうしたの?溜め息なんか吐いて」
僕が談話室でこれからのことについて悩んでいたら、丁度通り掛かったらしいリナリーが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。
勿論、エクソシストである彼女に僕の悩みを打ち明けるわけにはいかない。僕は慌てて笑顔を作った。
「別に大したことじゃないんです!気にしないで下さい」
「…そういう風には見えないけど………あっ、もしかしてあの二人のことで悩んでるんじゃない?」
「……?あの二人…?」