青龍の夢―序章―

 ―かって地上に大いなる災厄有り、其は天の禍なり―
 
 …どこからか長兄の声が聞こえる…
 「雷よ、そなたが短気を起こすたびに地上は荒れる、しばしそこで頭を冷やせ!」
 「あ、兄上……宜しいのですか?」
 …戸惑う、幼い弟妹の声…
 「よい…それよりお前達、水を与えてはならぬぞ」
 …厳しい兄の声…
 「…でも…兄上…」
 …すがるような弟の声…
 「ならぬ…私が戻るまでお前達二人で見張っているのだ!」
 …兄の声が足音と共に遠ざかっていった…
 
 …どれだけ時が経っただろう…何故兄上は私をこんな目に…それもこれもすべて…
 …延々と考えていた…とにかく自由になりたかった…兄が帰る迄など待てなかった…
 …外には幼い弟妹が居る…優しい二人は頼めば出してくれるだろう…
 …だが真面目で賢い弟は苦しむだろう…いいつけに背けば責められるだろう…
 
 …くるしい…
 兄の声が聞こえた…閉じ込められた次兄の声が…
 
 「くるし…水を…」
 「だめだよ兄上が…」
 …声で分かる、弟が辛そうに顔を伏せているのが…
 「す…少しでいいんだ…」
 「恩兄様…雷兄様が…」
 …焦りを含んだ妹の声…
 「ほんの少し…一滴でいいんだ…このままでは死んでしまう…」
 
 「お兄様…ほんの少しなら…」
 「…分かった…でも一滴だけだよ…」
 妹が大急ぎで駆けていった。
 「兄上…玉をお受け取り下さい…」
 妹の姿が見えなくなると牢の中に僕は小さな玉を投げ込んだ。
 それは兄の力を封じたものだった。
 
 もうじき妹が水を持ってくる、玉と水が有れば兄は簡単に牢から自由になるだろう、そうなった時、兄が何をするか分かっていた…それでも、僕は…
 
 …兄を死なせたくはなかったのだ…
  
 あとがき:天界の話ですネタは…分かる人は分かるでしょう…ネタバレになるからこれ以上は書けません……