…それはあたしにとっても危険な賭…

 …でも…現在(いま)はこれしか方法が無い…

 …だから… 


 
神話の始まり―4―


 「…なッ!…なにをしたっ!!いま!!…」
 …目の前の『そいつ』の表情(かお)が…驚愕に染まる…
 「…おっ!…おまえは…いったい…」
 …答えてやる義理は無い…
 ………
 …けれど…
 ………
 「…あたしの名は……ナ…インバース…」
 …吹き荒ぶ風が強い…
 …あたしの名を…『そいつ』が正確に聞き取れたかは解らない…
 …そこまでは責任は持てない…
 「…今回は大目に見るわ…でも…今後この地への一切の干渉は許さない…」
 …厳かに言う…強い決意を込めて…
 「…何を…」
 …人間如き…『そいつ』の目はそう言っていた…
 …でもあたしは『それ』には構わず…
 「…まさかまだあたしをただの人間だと思っているの?」
 …あたしは挑戦的な視線を向ける…
 「…この地には光と闇と混沌の王との契約がある…あたしはその護りの巫女…手出し無用よ…尤も…『ロード=オブ=ナイトメア』の意に逆らうと言うのなら別だけどね…」
 …そして…魔族にとっては致命的なトドメの一言を言ってやる…
 …正直…ここまで言うこともないかも知れないとも思ったが…
 「!!!」
 …しかし…『ロード=オブ=ナイトメア』…その名が出ただけで顔色を変えた…
 「…疑うのは自由…でも…この『力』の説明にはなるでしょ?」
 …そう言って手元に『混沌』の力を凝縮したオーブの様なモノを作り出してみせる…
 「…クッ!」
 …それを見て舌打ちをついて『そいつ』はこの場から姿を消した…

 ………
 …あたしは…暫く…ぐるりと辺りを見回し…
 ………

 …フウ…
 …小さく嘆息を吐いて…
 「…どうやら…行ったみたいね……」
 …そう呟いて…
 ………
 「…………………ねえちゃん…………………にいちゃん………」
 …そうして…僅かに俯いて…微かに呟かれたのは…

 …別離を告げた筈の…いまはもう…遠い日への…想いだった…


                   ―ゼフィール奇譚・序章―神話の始まり―
                                     …了…