―玉響―《前編》
…太公望…おぬしと出逢って…まだ百年と経っていないのに…
―約七十年前・崑崙―
竜吉公主はここ数百年程、洞府に籠もりがちになっていた。
当時、鳳凰山は訪れる者も特になく、清冽・神聖・高貴といった印象は、仙界一清浄な洞府という言葉に偽りは無かったが、かっての其処を知る者達から見れば、このころの其処は寂しいとしか言いようが無かっただろう…
そして…それは主の心を反映するものだった…
この日、洞府に籠もりきりの師を心配した、彼女の弟子は早咲きの桃の花を見つけたと言って公主を外に連れ出していた…最も外と言っても洞府から、さほども離れてはいなかったのだが…
そうして…花を愛でながら弟子と二人歩いていた時だった―
「…ちゃん…ぼぅ…ちゃ…どこ…」
―何処からか…途切れ途切れに…だがその声は確かに聞こえた。
「誰かおるのか?」
公主は訝しげに眉を寄せ、声のする方向に向かった。
「…望ちゃん…何処に行っちゃったのかなぁ…」
普賢は原始天尊に言われて呂望を捜していた…
「誰かおるのか?」
その声と共に姿を姿を現した、竜吉公主に普賢は驚いた…
「おぬしは…普賢ではないか…一体どうしたのじゃ?」
普賢の姿を認めた公主が問う。
「公主様、お知り合いですか?」
見知らぬ人の声を聞いた時、公主は弟子が警戒している事に気付いていた。
少し安心した様子で問う弟子に公主は普賢を紹介し、普賢に問う。
「それより普賢、何故おぬしは此処におるのじゃ?修行は良いのか?」
普賢はまだ崑崙に来て十年程位しか経っていない筈だった、その為に為すべき事は山とある筈だった。
「原始天尊様に言われて、望ちゃ…いえ、呂望を捜しているんですけど…」
見つからなくて―と言う普賢に、公主は疑問を覚える。
「呂望が居らぬのか?しかしそれで何故鳳凰山に?」
「それが…よく分からないんですけど、鳳凰山の辺りを捜すようにと…原始天尊様が…」
「千里眼かのう…とは言え鳳凰山と言っても広い、どれ私も手伝おう」
「え、でも…公主様…」
「遠慮はいらぬ、鳳凰山は私の住まいゆえな、おぬしは此処の地理を知らぬであろう」
「…あっ…」
「それでは、おぬしの方が迷子になってしまうぞ」
「それじゃあ、お願いします…」
―そして、三人で呂望を捜し始めて、半刻程経った頃だった―
金鑾斗闕のすぐ近くの桃園に呂望はいた。
「望ちゃん!!」
普賢が駆け出し、呂望が振り向いた時だった。
―公主は不思議な懐かしさを感じた。
太公望…あの時のおぬしの碧き瞳が、私の心に風を送り込んだ…
「公主…原始天尊様に、下山を命じられた…」
太公望は静かに唯それだけを言った…
「太公望…往くのじゃな…」
―そなたも…
「うむ…だがな公主、わしは必ず生きて帰ってくるよ…」
「…太公望…」
「だから公主…そのような顔をするでない…」
―太公望…何故…何故何も知らぬおぬしが…いつも私の苦しみを分かってくれるのか…いつも私を救ってくれるのか…
―太公望…おぬしと共に戦いたい…おぬしの役に立ちたい。たとえその為に私のこの身がどうなろうとも…必要ならば仙人界すらも…
―つづく―
―あとがき―
済みません…前後編になりました…近日中に後編も仕上げます…<(_
_)>
それにしても…前半、太公望の出番…殆ど無かったような〜リク内容は公主と太公望なのに…(-_-;)
代わりというわけではありませんが、後編は太公望と公主以外殆ど出ません…
それでは、リクエストどうも有難う御座いました。 ―RIN ―

