―玉響―《後編》
―殷周革命が終わった…
「太公望…此処に居ったのか…」
太公望は封神台の前にいた。
「公主…」
「どうかしたのか?ちと様子がおかしいぞ…」
太公望の様子がどこか…いつもと違うと思っていた…
太公望をずっと観てきた…公主だからこそ気付いた違和…
「………」
「太公望?」
「…分からぬ…分からぬが…何か…」
―誰かの囁くような声が聞こえる…
―もうすぐだ…と言う声が…
「太公望?」
「公主…わしは…何故か負ける気がせぬのだ…」
「それは良いことではないか…なぜその様な浮かぬ顔をするのじゃ…」
常とは異なる太公望に公主は不安になる…
「…分からぬ…分からぬが…わしは…わしは何かを…何かを手に入れ…何かを失う…そんな気がするのだ…」
「太公望…それは一体どういう…」
「分からぬ…だが…或いは…」
「或いは…何なのじゃ?」
「いや…だがまあ…わしが、そしておぬしが封神される事はなかろう…」
さっき迄の不安はどこへやら、気を取り直した様に言う太公望に、公主は眉を寄せる。
「公主…こう見えてもわしは占いが得意なのだぞ!」
眉を寄せる公主に、ピッと指を立てて笑ったのは、もういつもの太公望だった。
「そうであったな…」
公主は少しだけ安心する―太公望の占いの的中率の高さを知っていたから―
「わしもまだまだじゃな…」
公主の姿が見えなくなると、太公望は嘆息して呟いた。
―公主を不安にさせてしまった…
―だが…
―或いは…何かを取り戻し、何かを失う…そんな気がする…
「何故…封神されんだのと…あのような事をわしは言えたのだ…」
―占いなぞしておらぬのに―
―そして対胡喜媚戦…太公望が封神された…
「…う…嘘じゃ…嘘じゃ…」
―信じぬ…あやつが封神されたなぞと…あやつの占いは…
「―おまえ達の見てきた太公望はこの程度で死ぬような男か?」
―燃燈?おぬしは何を…いや…私は信じる…太公望を…
―あの日の言葉を…
「…公主、わしは死なぬ…」
―何度と無くおぬしが言うたあの言葉…
「…太公望…私は…おぬしを…」
「公主…先程言うたであろう、わしもおぬしも封神なぞされぬと…だから…」
そう言うと太公望は私の唇に優しく手を当てて…続ける…
「…だから…その先は…いまは…まだ…済まぬ…だが…いつか…」
―おぬしの…あの優しい拒絶は…未来への約束…
―太公望…おぬしと出逢って数十年…未だ百年も経っておらぬ…
―私のこの長き数千年の生…その中の僅かな…瞬きほどの時…
―それなのに…おぬしと共に過ごした日々は、いつの間にか私の中で…
…此程に重い…何よりも尊い…ものとなっておったのか…
―信じておるよ…太公望…おぬしはきっと帰ってくると…
―そして…総て終わったならきっとおぬしに伝えよう…あの日の約束の通りに…
…伝えよう…この思いを…
―過ぎし日は 彼の碧玉の如く 春の日の風の如く―
…其れは…玉響の恋…
―終わり―
―あとがき―ようやく出来上がりました、リク内容は『公主と太公望』ということでしたが、何か…公主の片思いみたいになってしまいました。…いえ、一応両思いなんですけど…太公望が正体の分からない不安を感じて、無意識に一線引いてしまう為です…
―私信―カカオの実様お待たせして申し訳ありませんでした、ご満足頂けるかどうか多少不安はありますが、どうかお納め下さい。
―RIN―
