「楽しかった〜」
『俺』はそう呟いて自分にあてがわれた部屋に置いてあるベッドに寝転んだ。
もともと寝るつもりで部屋に戻ってきたのだ。
だが寝転んだベッドは冷たくて。結局目が覚めた。
「……なんか、変だ」
『俺』は部屋が静かでさみしさを感じ考えていたことを口に出した。
「たまに、『俺』が『俺』じゃなくなる」
天井に向かって手を伸ばしてみる。
「『俺』はここにいる。なら何故?」
今の、記憶を無くした『俺』は疑問だけを抱えている気がする。

暗い洞窟にいた時も
   ………ここは、何処だ?
   ………『俺』は、誰だ?

千年公とロードが来た時も
   ………こいつらは誰だ?
   ………何のためにここにいる?
   ………『俺』と、同じ?

目を覚ました時も
   ………何故、感情が無い?
   ………何故、記憶が無い?

千年公の手伝いで人間と話している時も
   ………人間ってなんだ?
   ………こんなにも欲深いのか?
   ………こいつは、誰だった?

ずっと、『俺』は何かを問うことしかできないでいる。
悔しくて、忘れた自分が憎くて、思い出せない自分に苛立って。
負の感情だけが大きくなっていく。



『俺』は、何を忘れた?



『俺』は、何を騙しているんだ?



考えているうちに意識は徐々に睡魔に喰われていく。
『俺』はしばらく睡魔に身を委ねた。