…『真実(ほんとう)はみんなと…ずっと…一緒にいたい…』…
…でも…そんなこと…言えよう…筈がない…
…だって…僕は…思い出してしまった…
…もう…『ノア』と…『千年公』と…戦えない…
…どうしよう…
…『教団』のみんなも…『ノア』の『家族』も…『大切』なんだ…
…どちらにも…傷ついて欲しくない…
…ああ…師匠…どうかこの不出来な弟子に…教えてください…
…まあ…あなたのことだから…きっと…甘えるなって…言ってぶん殴られるのが落ちなんでしょうが…
…でも…師匠は…来ない…そんな都合良くはいかない…
…だから…
…この場の『誰』も…これから『僕』がつく『嘘』に気付けない…
運命の分岐(わかれみち)
―第1章―
―第4話―
…さあ…はじめよう…
…フフ…とんだ…茶番だ…
…とんだ…ファルスだ…
「…なに…言ってんさ…」
「…ごめんなさい…リナリー…ラビ…覚えていますか…旅の途中で…僕が悪夢に魘された時のこと…ごめんなさい…リナリー…君は…心配してくれたのに…僕の…『コレ』が…」
…そう言って…僕は…『左手』を示す…
「…アレン…お前…思い出したのか…」
…ラビの…顔色が変わった…
…寝言でも…聞かれたかな…
…そう言えば…ブックマンが…マナの名前を聞いた時…一瞬顔色が変わったっけ…
…ああ…つまり…知っていたんだ…『彼等』は…
…知っていて…知らないフリをしてくれたんだ…
…有り難う…
「…全部…思い出した…あの日のことだけじゃなく…僕のこと…マナのこと…そして…『コレ』のことも…」
…そう言って…僕は『左手』を見る…
「…アレン…それ…どういうことさ?…」
…僕の言葉に…ラビが僕の左手をチラリと見て…それから疑問を述べる…
「…たぶん…僕は…ブックマンの一族である君以上に…『ノア』や『千年伯爵』の『コト』を識っているよ…」
…そう…君が思っている以上に…
「…ねえ…ラビ…どういうこと?なにか知ってるの?アレンくんはなにをっ…」
…リナリーが…すっかり混乱して…訳の分からない話に堪り兼ねたように…そう言う…
「…ごめん…君達を騙すつもりはなかった…ただ…僕自身がすっかり忘れていただけ…いや…こんなの…言い訳にもならないな…」
…僕は自嘲の笑みを浮かべる…
「…なにを…」
…リナリーとラビが…それぞれ…そう言う…
「…僕は…もう『ノア』とは…『千年伯爵』とは…戦えません…」
…僕の…その言葉に…みんなは目を見開く…信じられないと言うように…
「…アレンくん…どうして…?…なんで…そんなこと…言うの…?…」
…リナリーの声が…震えてる…
…ごめんなさい…貴女を…哀しませたくなんかないのに…
「…僕の養父は…ノアだったんです…彼と僕を引き合わせたのは…千年伯爵でした…僕は当時…『彼』が千年公が大好きだった…そして…後に引き合わされた…ロードとは…兄妹のように…育った…『彼等』は『僕』の『家族』だった…僕はっ…ここまで言えば解るでしょう?僕はノアなんですっ!人間じゃないっ!…そもそも…もともと僕は人間なんか大っ嫌いだったんです!!」
…最初は…淡々と…次に笑顔を浮かべて…千年公が大好きだと言い…そして…人間への憎しみを叩き付けるように言う…
「…う…そ…」
…リナリーが…涙を零してる…
「…嘘じゃないですよ…優しいリナリー…僕は人間を憎んでるんです…何度も何度も僕を『殺した』人間を…」
…にっこりと笑う…表情筋をこれでもかと駆使して…伊達にピエロとイカサマをしてはいない…ポーカーフェイスは得意中の得意だ…
…だから…どうか…気付かないで…『僕』の『嘘』に…
「…う…そ…だって…」
ふるふると震えながら…リナリーが…
「…殺…し…た…って…アレン…」
…どういうことさ?とラビが…
「…アレンくん…ここに生きて…」
…生きて…いる…じゃ…ない…そう…途切れ途切れにリナリーが云う…
「…僕はノアだと言ったでしょう…まあ他のノアともちょっと違うんですが…『僕』は死なない…『不死』なんです…死んでも生き返る…僕を化け物だと言って『あいつら』は僕を何度も『殺した』…殺して…でも死ななかった…死んでもすぐに生き返ったんです…これでわかったでしょう…僕は人間じゃない…そして…人間が憎い…とても…」
…嘲るように…僕は言う…
「…思い出してしまったんですよ…『あの頃』の…『恐怖』と『憎悪』を…そして…『家族』への『愛情』を……もう…僕には『人間』のために戦うなんて出来ない…ましてやその相手が…『家族』なら尚更です…」
…にっこりと笑みさえ浮かべて…そう続ける…
「…じゃあ…なんで…」
…そんな目で…見ないで…リナリー…
「…言ったでしょう…忘れていたって…マナがノアを裏切って僕の記憶を封じ、師匠に僕の『コト』を教えたんです…裏切りの疑惑があったマナは、全てを教えられてはいなかった…僕のことをこの『イノセンス』を持っているから、騙されて利用されてるだけの…ただの子供だと…思っていたんです…いつか僕が千年公に殺されると…そんな有り得ないことを恐れて…マナは僕を連れだした…」
…ここまで話した『コト』は全部…本当…『嘘』をついているのは『僕』の気持ち…『僕』の『態度』…
「…なんでさ…アレン?…なんで騙されてないって言えるさ?…なんで殺されないって言えるさ?…アレンッ!」
…ああ…ラビ…やっぱり君は…君達は…そういう風に考えていたんですね?…
…でも…その推測は…マナと師匠の間での『事実』であって…『真実』じゃない…
「…『解る』からです…確かに僕には七千年前の『記憶』はない…『聖痕』も…『肌』の色も変わらない…『彼等』の様には…」
…淡々と告げる…確かに他の『ノア』と『僕』は『違う』…そのことを…
「…だったらっ…!…」
「…それでも…『僕』には『解る』んです…解ってしまうんです…千年公とノアは敵じゃない…むしろ…絶対の…絶対に『僕』を裏切らない…味方だと…」
…そう…これも…本当…
「…なに言ってるさっ!メェさますさ!アレンはイノセンスを持ってる!生き返ったっていうのもきっとイノセンスの力さ!ティキ・ミックと戦う前にアレン言ってたじゃないさ!イノセンスが傷を塞いでくれたって…ノアの筈がないさっ!…」
…ラビ…傍観者の筈のブックマンが…ずいぶん必死だね…
…有り難う…嬉しいよ…でも…
「…これは…イノセンスであって…イノセンスではないんです…」
「…な…にを…」
…僕の言葉にラビが目を見開く…
「…正確には…『対アクマ武器』ではない…と言った方がいいでしょうか…『コレ』にはもっと別の『役割』があるんです…そしてそれは『僕』もまた同じ…」
「…どういう…ことさ…」
…上擦る…ラビの声…
「…これ以上はあなた方に話すつもりはありません…」
…そう言って僕はみんなに背中を向ける…
「…っ…アレンッ!」
…ラビが叫んでる…
「…アレン…くん…」
…リナリーが…泣いてくれてる…
…ごめん…みんな…
「…もう…いいでしょう…さっさと行って下さい…」
…行って下さい…早く…
「…生かして帰すのは…これまで共に旅した君達への…僕なりの好意です…」
…どうか…『僕』の…この『嘘』に気付かないで…
…こんな…『僕』は…見限って…さっさと…行って下さい…
「…レロ…こっちにおいで…久し振りだね…キミにも心配を掛けたね?ゴメンネ?『彼』を…ティキを頼んでいいかい?…『僕』の不完全な『力』で一度『快楽』が消えた所為で目覚めるのに時間が掛かると思うんだ…」
…『僕』はレロの方を向いて…声を掛ける…
…もう…『僕』は…『彼等』の方を見ない…
―終わり―
―運命の分岐(わかれみち)―第1章―了―
―第2章に続く…