…『…これは…『吸血』と『絆』…の…『コエ』…』
 …『…そう…疲れたの…少しやすむの…ウン…イイヨ…シンジテルカラ…』…

 …信じるよ…


 
岐路(わかれ)への道程(みち)―4―


 ―「不安な時は楽しいことを…」…
 …それは…コムイさんの受け売りだった…

 …その言葉で…僕はとても力付けられた…

 …僕はもう独りじゃない…

 …共に戦う仲間(家族)がいて…
 …帰りを待ってくれてる仲間(家族)がいて…
 …帰る処(ホーム)が在って…  

 …それがとても嬉しい…

 …さっきラビが言ったように…

 …いまはとても絶望的な状況で…信じるのはとても苦しいけど…けど…
 …不安でも…苦しくても…信じよう…
 …だって…『彼等』が信じてくれている…
 …『先に行け』と言った二人も…
 …江戸で…戦ってるだろう…みんなも…
 …そして…教団で待っていてくれてる…人達も…
 …みんな…きっと…信じて…それぞれがそれぞれの形で戦ってる…

 …だから…それに応えよう…
 …僕も信じよう…
 …神田もクロウリーも絶対後から追い掛けてくる…みんな一緒にこの方舟から生きて出る。必ず。
 
 …信じよう…

 ……………………………………………………………………………………………………
 ―『存在自体が対アクマ武器』
 …バクさんは比喩で言ったんだろう…でも…
 ―『僕はもう人間じゃない』
 …僕自身が…思ってしまった…
 『人間』じゃないと…

 …『人間』…久し振りに…意識した…その言葉…その存在…
 …昔は何度も…僕は人間だと言った…思った…
 …奇怪な腕を持っていても…人間だと…それこそ…言い聞かせるように…ずっと…
 …マナが優しく人間だよと言ってくれた…
 …その言葉に安心を貰った…
 …初めて発動したあの時…
 …マナをアクマにして…呪われて…破壊したあの時…
 …やっぱり自分は化け物なのかもしれないと…そう思いかけた時…
 …師匠と出会って…師匠が…教えてくれた…
 …だから僕はまた安心できた…
 …そして誰に何を言われても思われても…まるで意に介さない…師匠に…
 …その姿に…教えられた…
 …それからは…気にならなかった…気にならなくなった…つもりだった…
 …昔から…なんどか言われたその言葉…
 …腕を見られて言われたり…エクソシストになってから…
 …戦っていて…そして言われたりした…
 …『化け物』と…『悪魔』と…
 …そしてエクソシストになってからは…時には…『人殺し』とも…言われた…
 …慣れたつもりでもあったし…僕は僕だと思っていた…でも…
 …もしかしたら…
 …そう思って…僕はまた恐くなった…

 …平気になったと思っていたのに…
 …『化け物』…そう呼ばれるのは…慣れたこと…なのに…
 
 …あの時…
 …そう言われて…伸ばした手が…叩かれて…
 …そしたら…急に恐くなった…
 …そして…再生しているという左目のことが不意に頭を過ぎって…
 …みんなが…それを恐れなかったことに救われた…
 …でも…
 …アジア支部で目を覚ました時…僕自身が恐かった…
 …なにが自分の身に起こったのか…分からなかった…
 …分かっているのは…もう…左腕が…イノセンスが無いと言うことと…そして…
 …僕が死んだと言うことだけだった…
 …僕は…確かに『死』を感じ…
 …そして…あの時ティキ・ミックは確かに言った…『心臓に穴を…』と…
 …なのに僕は生きていて…それがとても恐かった…
 …何故生きているんだろうと…
 …あんなに生きたいと願っていたスーマンは死んでしまった…
 …なのに何故?…
 …死んだ筈なのに…生きてる…これはあまりに異常だ…
 …みんなが知ったら…なんて思うだろう…こんな…
 …これじゃあほんとに…
 …『化け物』だと…そう言われても否定できないと…どうしようと思った…
 …恐くなって恐くなって…そしたらそこに人がいるのに気が付いて…
 …眠っていることに安堵して…同時に…目を覚ましたらどうしようと思った…
 …その場にいるのがどうしようもなく恐くなって…ジッとしていられなくなった…
 …歩き始めたら…立ち止まるなと言うマナの声が…聞こえた気がして…
 …そして…ただただそれだけを考えていられた…
 …バクさんに声を掛けられた時には…ギクリとしたけど…
 …でも…すぐに分かった…『化け物』だと思われてはいないのだと…
 …次いで姿を見せた…フォーとウォンさんも…
 …フォーは怒っていたけど…そんな風には思っていなくて…
 …ウォンさんと二人…心配してくれていたんだと…
 …そして助けてくれたんだと…気付いて…それがとても嬉しくて…
 …怖がられていないと…『教団の仲間』に否定されたりしないのだと…安心できた…
 …そしてその後…
 …バクさんに…イノセンスが僕を助けたと…
 …そう教えられて…ようやく心底安堵した…
 …別の疑問は生まれたけれど…それでも…
 …ひとまず安心した…

 …だけど…
 …アクマが現れた…あの時…
 …あの時から…また分からなくなった…

 …不意に…過ぎったのは…僕自身が『対アクマ武器』という言葉…
 …『対アクマ武器』=『イノセンス』…僕は…本当に?…
 …わからなくなる…
 …また…恐くなる…
 …分かってる…別にバクさんは…僕をそんな風には思っていない…
 …アレは喩えだ…
 …でも…

 …でも…
 …僕はこわい…

 …もしかしたら…それがこわい…とても…

 …でも…

 ……………………………………………………………………………………………………

 …でも…
 
 …信じよう…

 …もしかしたら…僕は…本当に…人間じゃないかも知れないけれど…

 …仲間(みんな)がいれば… 

 …仲間(みんな)といる限り…

 …僕は…僕を見失わないでいられる…きっと…

 …うん…大丈夫…

 …大丈夫だよ…マナ…

                                            ―続く―