忘れられしモノ―T―

 
 …かって…大いなるモノ達…この地に降り立ち…総てを育む始祖となる…
 …大いなる災いあり…されど始祖の加護によりて…この地は滅びし後に再生す…
 …再生せし者たちは何も知らず…真実は時の彼方に…伝説は断片的な痕跡のみ語る…
 …神々は何も語らず…
 
 …彼はふらりと現れては、不意に消えた…
 外見は少年のようだったが、不思議な所があった…
 どう見ても彼は常人ではなかったが、仙人界の誰も彼等の事を知らなかった……
 
 「この前、人間界に降りたとき不思議な少年の話を聞いたんだ」
 太乙真人が仙人界の教主である楊ゼンに言う、とてもじゃないが教主に対する態度じゃない。
 「…不思議な少年…天然道士でしょうか?」
 楊ゼンもそんな太乙を気にせずに思いついた可能性を口にする。
 「うーんそれがどうも違うみたいなんだ…人間達は仙道だと思ってるみたいなんだけど…仙人界の誰もそんな仙道は知らないって言うし…」
 カメラ目線で太乙は格好つけながら言う。
 「誰も知らない仙道ですか…神界の方々はどうなんでしょうか?」
 「確かにあの人達は何でも知ってるみたいだけど肝心な事は何も話さないし、それに何時くるか分からないしね…」
 「こちらからは行けませんしね…取り敢えず今度人間界に行ってみましょう…太乙様その街に案内して頂けますか…」
 「そうだね…それが一番手っ取り早いかもね」
 楊ゼンの提案に太乙が同意したその時だった…
 「何が手っ取り早いのだ?」
 いきなり誰かが二人の背後から話しかけた。
 その声に二人は振り返る。
 『玉鼎真人様!?』
 二人の声がハモル!
 「玉鼎でいいよ、楊ゼン、太乙」
 心なしか玉鼎は少し寂しそうに言った。      
 「丁度良かった、今楊ゼンとも話してたんだけど……」
 太乙は楊ゼンと話したことを件の神界の住人である玉鼎に尋ねた、玉鼎は何故か楊ゼンに甘い所があったのでもしかしたらと期待したのだ……
 「…不思議な少年?…」
 玉鼎は眉を寄せて問い返す。
 「うん、外見は黒い髪に碧の瞳の十代前半の少年なんだけど、見かけに合わないじじい口調だっていうことなんだ…」
 太乙は玉鼎に街で聞いた少年の特徴を話した。
 その話に玉鼎は暫し沈黙していた……
 「……すまないが…私は急用を思い出した…今日はこれで帰るよ……」
 そう言うとそそくさと立ち去った。
 「…玉鼎様…何か知っておられますね…」
 そんな玉鼎を見て楊ゼンが言う。
 「やっぱり直接行ってみた方がいいみたいだね」
 太乙が楊ゼンに頷いて答えて言った。                                    
―つづく―