「…僕はっ…もう…戦えないんですっ…」
 泣きながらそう叫んだアレンの表情(かお)は…
 …『助けて』と叫んでいるように俺には見えた…
 …まったく…この馬鹿弟子は…何故こんな時くらい素直に『助けて』と言わん…
 …なぜ…一人で抱え込む…
 どうやら教団にやってもこの悪癖までは直らなかったようだな…
 そう思って俺は嘆息を吐き…
 「……マナの手紙には…そんな風には書いていなかったぞ…」
 頭に手を当ててそう言った…


 
―11年前の『奇怪』―
              ―12―
 


 「……マナの手紙には…そんな風には書いていなかったぞ…」
 フウと嘆息を吐き頭に片手をやって師匠が言った…
 「…マナが裏切っていたことを…千年公は気付いていたんですよ…本当のことなんて話すわけが…」
 …ないでしょう…そう言い掛けた僕の言葉を…
 「…そうだな…伯爵が気付いていたんならそうだろうよ…」
 …師匠が遮って肯定し…
 …だが…と言い置いて僕を真っ直ぐに見て…
 「…アレン…お前は『ノアの一族』ではないだろう」
 そう言った…
 その師匠の言葉とそして僕を見つめるその瞳に…
 僕はギクリとして…
 「…僕は『ノア』です…『ノアの一族』なんですっ…」
 そう強く断言する。
 …師匠が『あの事』に気付いているんじゃないか…フッと過ぎったその考えを否定すべく…
 …でも…
 「…なら言い直してやろう…お前は…」
 次いで師匠が口に仕掛けて止めた『その言葉』に…僕は確信する…
 師匠が…『あの事』に気付いていると言うことを…

                                            ―続く―