…立ち枯れた木々…乱立する古ぼけた幾つもの墓標…舞い散る雪…瞬く星々と…白い月…

 …そして…黒い水面…

 「…アレン…僕の…たった一人の…『お兄ちゃん』…」
 水面へと…ゆっくりとロードは近付き…
 「…待ってて…いま…『其処』に行くから…」
 …その水面の上にそっと足を着ける…

 ―黒い水面には波紋すら起たず…ロードはその上をゆっくりと…一歩二歩と歩いて後…その口中で小さく呪を唱えると…トプンとその姿は黒き水面へと吸い込まれた…
  

 
―11年前の『奇怪』―
              ―16―
 


 「…だって『これ』は…」
 …この『イノセンス』は…そう言い掛けた時…
 ―フッと…微かに…キこえた『コエ』と感じた『気配』に…僕は目を瞠り…
 …さっき…千年公の『コエ』が…聴こえたような気がしたのは…やっぱり気の所為じゃなかったのか…と嘆息を吐き…
 「…タイムリミットか…」
 そうポツリと呟くと…
 「…なに?どういうことだ?馬鹿弟子」
 師匠がピクリと僅かに顔を顰めて言う…
 「…お別れです…師匠…みんな…」
 そう言って僕はにっこりと笑う…
 「…これまでありがとうございました…僕…嬉しかったです…」
 僕の背後に…『扉』が出現する…
 「!アレンくんッ…!…」
 リナリーが目を見開く…
 「…師匠には…嘘は通じないから…だから…もう嘘を吐くのは止めます…」
 …教団の仲間(みんな)も…ノアの家族(みんな)も…僕は大切だから…
 …どちらも大切で…失いたくないし…どちらとも戦いたくなんかないし…どちらにも傷ついて欲しくない…
 …だから…だから僕は…
 「…さようならみんな…短い間だったけど…幸せでした…」
 …逃げることしかできないけど…
 …それでも…『それ』がいまの『僕』にできる…『最善』だと思うから…

 …さようなら…みんな…もう二度と会えないだろうけど…
 …それでも『僕』は…『みんな』を愛しています…

                                            ―続く―