…『本当』は…もうずっと前から解っていた…
 …『この日』が来ることは…

 …それでも…師匠に言われるまで…僕は全く考え及びもしなかった…


 
―『アレン・ウォーカー』の『旅立ち』―
                      ―1―
 


 「アレン」
 「なんですか〜師匠ー僕『誰かさん』の所為で今忙しいんですけど〜」
 背後からの師の呼び掛けに僕は振り返らずにそう返す。
 「お酒買ってこいとか言うんなら後にするか…この『書類』自分で処理して下さい」
 いま僕は…師匠がサボって溜めに溜めてくれていた『仕事』の処理に追われている…
 「…『期限』までに片付かないと他のみんなにも迷惑が掛かるんですから…」
 そう言いながら僕はひたすら『書類』に目を通しサインをし印章を押し続ける…
 振り返りもせず延々僕はその作業を繰り返していた…
 …だが…内心では「あれ?」っと思っていた…
 …だって…いつもだったらとっくに師匠は怒りだしている筈…
 そう思い…「なんでだろう?」と疑問に感じていると…
 「…違う…」
 …いつもとどこか違う感じの師匠の声がした…
 その声に…「えっ?」と思い…

 …僕はゆっくりと振り返った…

 …振り返った時…其処にいたのは…
 椅子に優雅に腰掛けて、ワイングラス片手に無表情でこちらを見る…『いつも通りの師匠』だった…

 …だから僕はこの時すぐには…その『違和感の正体』に気付けなかった… 

                                            ―続く―