―くすり…
 …先刻の…神田とアレンくんの喧嘩の様子を思い出して…少しだけ頬笑ましくて笑みが零れる…
 …そんな私の様子を不思議に思ったのだろう…
 「…?どうかしましたか?リナリー殿…」
 …トマがそう不思議そうに聞いてきた…

 
 
…ディスティニー…
         ―マテール編―
               ―11―



 「あっ!ううん、なんでもないのトマ、気にしないで…」
 …そう言ってトマに手を振って何でもないとジェスチャーでも示す。
 「それより!トマ、人形は?一緒じゃ無かったの?」
 …そして実はさっきからずっと気になっていた事を聞く…

 …そう…神田とトマは『マテールの亡霊』こと『人形』を保護していた筈なのだ…
 …それなのに何故か先程からその姿が見えない…
 …だからリナリーはずっとそれを気にしていたのだ。

 「ああ!人形はこちらです…あの時大きな音がして、もしかしたらアクマとリナリー殿が戦っているのかもと、こっそり様子を見ようとして…ですがアクマがいたら人形も一緒では危ないですから…こちらの壁の影に隠れて……」
 …そう言いながら角を曲がり…トマの言葉が途切れる…
 「…?トマ?どうしたの?」
 …そう言ってリナリーも角を曲がると…
 「………………」
 …呆然と…立ち尽くすトマ…
 「…申し訳ありません…リナリー殿…」
 「トマ?どうしたの?まさかっ!?」
 …呆然とした様子で謝るトマの言葉に、「まさか」とリナリーは思う。
 「まさか…ここにいる筈だったの?いる筈なのにいないの?」
 「…はい…申し訳ありません…あの時…私も一緒に残っていれば…」
 …アクマがいないと知って…安心して…そしてクロス元帥の名前に驚いて…出て行ってしまったと…
 …トマはポツリ、ポツリとそう言った…
 …気を抜いてしまったと…

                                            ―続く―