「…かなりダメージが深いみたいで…まだ意識が…時々は戻るみたいですけど…それもかなりあやふやなようです…」
 そのアレンくんの言葉に…愕然とした…
 …そんな…神田…そんなっ…
 慌てて私は神田に駆け寄る…
 「…随分血も流れているようです…出来るだけ早く病院に連れて行った方が良いと、僕は思います…」
 …そんな…神田が…そんな状態だなんて…
 「…そん…なっ…」
 …どうしたら…
 「…レディーリナリー…幸い…もうこの付近にはアクマはいません…イノセンスは暫くは大丈夫でしょう…だからいまは神田を病院に…」 
 アレンくんがそう言う…きっと彼も心配なんだ…
 …会ったばかりだけど…彼がとても優しい人だということはもう分かってる…
 …だから…優しい彼は…神田を心配してくれている…
 …でも…
 「…駄目よ…」
 …そんなことしたら…神田が怒るの…
 「…えっ…?」
 目を見開くアレンくん…凄く意外そう…
 「…そんなことしたら…神田が怒るわ…任務を…優先しろって…」
 …神田は…そういう人なの…
 ―ツゥー…
 …そういう…人…な…の…
 私の頬を…涙が流れ…
 …止まらなく…なる…

 ―私はどうしていいのか…分からなくなった… 
  
 
 …ディスティニー…
           ―マテール編―
                    ―24―
 


 「…駄目よ…」
 レディーリナリーの…その言葉は…意外だった…
 「…えっ…?」
 …だって…イノセンスは…暫くは大丈夫なのに…
 …まさか…貴女は…仲間の命より…イノセンスを優先するんですか…?…
 …それが…『教団』のエクソシストなんですか…?… 
 「…そんなことしたら…神田が怒るわ…任務を…優先しろって…」
 …えっ…?…それは…
 俯く彼女のその頬を…涙が伝う…
 「…神田がっ…」
 …怒るの…そう掠れた声で…
 「…どうしたらいいの…?…どうすればいいの…?…」
 …ボロボロと涙を零しながら…彼女は言い…
 「…でも…このままじゃ…神田がっ…私の…仲間がっ…っ…どうしていいのか分からないのっ!!」
 …そして顔を上げて…涙に濡れたその顔で…そう叫んだ…
 ―…その彼女に…僕は…
 「…済みません…レディーリナリー…」
 …胸が…痛んだ…
 「…アレン…くん…どうして…?…」
 涙目で…でも…不思議そうなレディーリナリー…
 …分からないのは当然…だって彼女は知らないんだから…
 …でも…それでも…僕が…神田を痛め付けるようにアクマに命じた事に変わりはない…
 …しかも…僕は別に神田に対しては少しも悪かったなんて思っていないし…後悔もしていない…
 …ただ…貴女を悲しませてしまったことと…
 …そして…
 「…一瞬だけ…僕は貴女を疑いました…」
 …そう…僕は疑った…
 …自分のやったことは棚に上げて…
 「…えっ…?…アレンくん…それ…どういうこと…?…」
 目を見開いて僕を見るレディーリナリー…
 「…僕は…貴女を…仲間より任務を優先する…冷たい人なのかと…思ってしまったんです…貴女が…どんなに苦しんでいたのか…それに気付きもしないで…」
 …本当に一瞬とはいえ…
 「…そんなっ…そんなことっ…アレンくん気にしたの!?」
 レディーリナリーがそう言って身を乗り出す…
 …って…『そんなこと』?…
 「…あの…そんなことって…」
 …そんなことで済ませられるようなことじゃあ…
 …だって僕…随分と酷い誤解をしたんですよ…?…
 「…だって…アレンくんに…そう思われても仕方ないし…実際私だって…思ったもの…」
 ―くすり…と彼女が笑い…
 「…だから…そんなことアレンくんは気にしないで…それから…神田を助けてくれてありがとう…もしアレンくんに会わなかったら…神田はっ…」
 「ストップ…レディー…お礼は要りません…」
 …僕は…彼女のお礼の言葉を…聞いてはいられなかった…
 「…えっ…」
 …でも…本当の事は言えない…
 「…まだ…神田は助かったわけではありません…」
 …だから僕はこう言った…
 …話を戻す必要もあったし…実際その通りだったから…  

                                            ―続く―