REMINISCENCE―U―
禁城潜入作戦
―人界―〈太公望〉
何とか禁城に入り込む必要があるが、その為にも妲己に親しいものを捕らえる必要がある。
先に街で得た情報では、また人狩りが行われるという。
その折りに妖怪仙人を封神し人狩りを阻止すれば、申公豹あたりが面白がって動くであろう。
そしてわしは予定通り陳桐を封神し、朝歌に戻ってきた。
占い屋を開きその評判は王宮にも届くほどになった。近いうちに何らかの動きがあるであろう。
「おーい道士様、早くしてくれよ!!」
「いよーし、リクエストにお応えして、今日は新作、いわし占いを披露するぞ!!」
占い始めたわしに女が一人、声をかけてきた。
「わたし急いでおりますの、先に占って下さらないでしょうか?」
並んでおった大多数の客はそれを認めて前を譲る。
わしは目の前に立ったその女を視て、すぐにその正体に気付き、その申し出を容れた。
「………よかろう」
そやつ―王貴人は石琵琶の妖怪仙人であった。
正体を顕した王貴人は人質に使える、封神はせずに禁城に入るために利用させて貰おうか…
―仙界―
「太公望、あやつ……」
「どうかなさいましたか?原始天尊様…」
千里眼で太公望の様子を見ていた原始天尊の様子に白鶴童子が疑問を示す。
「…いや…ちと不味いことになったかもしれぬ…」
「不味いこと…ですか…」
「うむ…太公望の奴…仇を前にして焦っておるのやもしれぬ…」
「…あの師叔がですか…」
何時もマイペースな…誰に対しても己を失うことなど無い、あの太公望が焦っているなどと、白鶴は信じられなかっただろう…
…普段なら…それが千里眼を持ち、太公望を12の頃より育ててきた老師の言葉でなければ…或いは自分が、崑崙に入山したばかりの頃の太公望を―呂望という名の少年を―知らなければ…そして…この封神計画で倒すべき敵が…いま、太公望が目前にしているであろう敵が…太公望否呂望の仇敵である妖怪仙人でさえなければ…或いは自身が何も知らなければ…
…しかし白鶴は事情を知っていた…この封神計画の深部も含め…
だからこそ白鶴は当惑した…太公望の失敗の意味するところを彼はよく知っていたから…
「………」
暫しの沈黙―
「…どうなさるのですか…原始天尊様…」
―その沈黙に耐えかねて白鶴は原始天尊に問いかけた…
―人界・朝歌上空―
「申公豹―太公望、王貴人に勝っちゃったね…」
「そうですね、これから面白くなりますよ、黒点虎」
「ねぇ申公豹、なんで太公望は王貴人を封神しないの?」
「彼にとって、殺したい相手は妲己と紂王、いえ滅ぼしたいと言った方がいいかもしれませんね…兎に角彼等だけなんですよ、それと殷王朝も…」
「ええ!!」
黒点虎の驚きを無視して申公豹は相変わらずマイペースに続ける。
「そしてその上で、できるだけ犠牲も出したくない…全く、欲張りな話です…」
「で、でも太公望…確か封神計画嫌がってなかった?」
「嫌がってましたよ、よっぽど犠牲を出したく無いようです…」
「でも…それじゃあ陳桐君は?」
「陳桐は犠牲者ではありませんよ、少なくとも太公望にとっては彼は滅ぼすべき存在なんです…」
「…申公豹って何か知ってるの?」
「黒点虎、崑崙山の方に千里眼を向けて下さい、原始天尊の反応が気になります」
唐突に話題を変える申公豹に、何時もの事だと思いながら、言われた通りにした。
―アストラル―
彼はその空間から常に世界の様子を、複数のパネルを通じて、同時に観ていた…
そしてあるものには、石琵琶を持って、禁城へと向かう太公望の姿が…あるものには、一人黙々と回廊を往く原始天尊の姿が…あるものには、太公望の様子を千里眼で見ている申公豹と黒点虎の姿があった…
―つづく―

