『草原の少年0』 ―2―


 邑の中心に設えられた包の周りを殷の兵が取り囲み…村人達はそれを不安そうな様子で遠巻きに見ている…
 その様子に少年は軽く息を吐くと、顔を上げて包へと向かった…

 「…頭領…子牙…お呼びと伺い只今参上致しました…」
 そう言って少年が包に入ると其処には…
 頭領たる少年の父と母と一族の長老達がおり…
 そしてその向かいには…殷の兵を引き連れた一人の美女が立っていた…

 「あなたが姜子牙ちゃんねv」
 殷の兵を引き連れたその美女は、少年を見るとそう言って宛然と微笑み、少年に近付く…
 「わらわは王氏、殷の皇后よんv」
 そう言った時、王氏の纏う羽衣が風も無いのにフワリと揺れ、甘い香りがあたりに満ちる…
 強く…

 そして…彼女は囁く…甘く…誘うような…甘美な声で…
 
 …誘うように…絡め取るように…
 …甘い囁きと香りが少年を包み込み… 
 …捕らえようとするかの如く…

 「あなたはとても頭が良いのですってねv」
 にっこりとまるで童女の様に笑んで王氏は囁きかける…
 「………」
 少年はそんな王氏の様子にもただ沈黙している…
 沈黙を守る少年に手を伸ばし、愛おしむ様に頬を撫でる…
 「ねぇんv姜子牙ちゃんv殷に来ない?あなたなら殷の大学にも入れると思うのんv」
 甘い香りが更に強くなる…
 「お言葉は嬉しいのですが、僕はこの村の次の長です。その長がこの村を離れる訳にはいきません」
 真っ直ぐに王氏を見、少年は決然と答える。
 「そぉんv残念ねんvそう言う事なら仕方ないわねんvでもぉんvもし気が変わったら…何時でも城にいらっしゃいねんv待っているわんv姜子牙ちゃんv」
 そう言って微笑むと、王氏は兵を引き連れて去って行った…

                 ―続く―