「…それに…思い出すって一体どういうことっスか?」
 …俺の疑問に…千年公は遠くを見つめる様に目を眇め…そして…
 「…昔…我輩は『アレン』と…あの子と一緒に暮らしていた事がありましタ…v…」
 「…え?…せ…千年公?…ちょっ…それ…どういう…」
 …どういう意味か…そう問おうとした時…
 「…しかし我輩は忙しかったのデ…あの子が寂しく無いようにマナに世話をするように言いましタv…あの男への最後のチャンスの意味もありましタv…裏切りの疑惑のあるあの男ニ、全てを語る訳にはいかなかったのデ、我輩は『アレン』の左手の『イノセンス』についてのみ教えましタv」
 「…あのイノセンス…そんなに重要なんですか?」
 …まさか…ハートじゃあ…
 …そう漏らした俺に千年公は左右に首を振った…


 
ティキ・ミックの疑問―6―


 「イイエv『あのイノセンス』は『ハート』ではありまセンvそもそも『ハート』は『イノセンス』では無いのでスvヤツラが勘違いしてくれているのデ、我輩は出来るだけ長引かせたいと思っているだけデv我輩はもうとっくに『ハート』を見つけているのでスv」
 「!ちょっ!千年公!俺そんな話し聞いてませんよ!?」
 …ハートをもう見つけてる!?そんな話し初耳だ!?それに…それなら何故壊さないんだ?…壊せばイノセンスも消せるんでしょう?
 …って…いや…それより『ハート』が『イノセンス』じゃないって…どういう意味だ?
 …そう思いながら千年公を見れば、千年公は…
 …話していませんからネvと言い…そしてにっこり笑って…
 「…それニ…『ハート』は壊せませンv…また壊す必要も無いシv…何より我々にとっても壊す訳にはいかないのでスv」
 「…え?だって?…」
 …これまで散々…
 …え?…でも?…
 「…イノセンスの『ハート』はイノセンスではないのでスvティキポンも知っていると思いますガvイノセンスとノアは光と闇と同様の関係にありまスvそして光と闇は本来同じ一つのモノから別れて存在するモノv…コインの表と裏の様な関係なのでスv…そしてイノセンスとノアもまたそれは同ジv源は同じなのでスv源である『ハート』は『一つ』とは、つまり…そういう『意味』でスv」
 ここまで言えばもう解るでショウ?v
 …そうにっこりと笑って千年公が問い掛けてくる…
 「…それはつまり…イノセンスの『ハート』は…ノアにとっても…と言うことですか…?…」
 「…そうでスv…そして『ハート』が『覚醒』シ、その『真の力』を『発揮』すれバ、イノセンス・ノアどちらの『力』もその『意思』で増幅も無効化も出来るのでスv」
 「げっ!じゃあ!」
 …千年公のその説明に驚く。
 …尚更そんなやっかいなモノはヤツラには渡せない…と思って…だがふと気付く…
 …あれ?でも?確か千年公はさっき…
 …とっくに『ハート』を見つけてる…そう言ったよな?…
 …それに…あまりの事についうっかり忘れかけてたが…少年のことはどうなった…?…
 …確か最初はその話しだった筈…
 …それを聞いてみようとした時…
 「…そして『アレン』の『イノセンス』…あれはネvティキぽんvイノセンスであってイノセンスでない『特別』な『イノセンス』なのでスv109個のイノセンスの中で最も『ハート』に近く『ハート』の為に存在する『イノセンス』であリv『ハート』を見つける為の『目印』にも『ハート』を真の意味で『覚醒』させる為の『鍵』ともなりうるモノなのでスv…だから我輩は十年前…人間に虐められていた『アレン』が無意識に助けを求め、『発動』させた、『アレ』の『真の力』の『一部』を感じ取った時、急いでその場に行きそして『アレン』を『あのイノセンス』を一度は手に入れたのでスv…その後我輩は『アレン』に『アレ』の『力』を『コントロール』させ『ハート』の『覚醒』を少しずつ…でも『確実』に促していきましタv…しかし…その後一歩と言う所デ…あの男が『アレン』を『外』へ連れだし『アレン』の『記憶』を『封印』してしまったのでスv…あの男には具体的な所は何も話していないので『アレン』の『力』の事までは、知りませンv…ですガ…『知識』がなければいくら『力』があっても使えませンv…精々生命に危険が生じた時に無意識的に使っている程度デスv」
 …げ!…あの少年…そこまで重要人物だったのか?
 …でも…あの少年を人間が?どういう意味だ?
 …その事を疑問に思い聞いてみる…
 「…ティキぽんv…ティキぽんも『アレン』の『左手』を知っているでショウv『ヤツラ』はとても狭量な生き物なのでスv自分たちと違うモノ…『異端』を認めなイv…そして『アレン』には『力』もありましタv…赤ん坊の『アレン』が一人で生きていけよう筈がない…生命維持の為に無意識にその『力』は発揮され…『人間』が『誰も』世話をしなくとも、最低限その『生命(いのち)』を繋ぎ続けていたのでスv…そして…それを見た人間がどう思うか……『アレン』は物心つく前から…『人間』に『化け物』と呼ばれ『悪魔』と呼ばれ…『人間』に近付いては…石を投げられ…追われ…傷つけられ続けたのでスv」
 …なっ!?…それは…
 …いまは『神の使徒』と呼ばれる、エクソシストのあの少年が…そんな目に…?…
 「…いまのアレンにその『記憶』はありませンv…あの男が『封印』してしまったのデv…ですが…昔…我輩達と暮らしていた頃の『アレン』は『人間』をとても嫌っていましタv…そして我輩達をとても好いてくれていましタv」
 「…そうなんスか?…千年公…?…」
 …あの少年の様子からは…ちょっと信じ難い…
 …確かに…目の前でスーマンを殺された割には…なんと言うか…敵意をあまり感じなかったが…
 「…エエv…『アレン』と『アレンのイノセンス』…『クラウン・クラウン』は『特別』なのでスvイノセンスであって、イノセンスで無イvエクソシストであってエクソシストではなイv『ハート』の為に『存在』するが故に、絶対に『ハート』に対し『危害』を加えぬ『存在』である『我々』に対し『本心』から『敵意』を持つことは出来ないのでスv…そしてそれは我々も同様でスv…『ハート』と『ハート』に最も近い『存在』に対し『敵意』を持つ事も『危害』を加えることも出来ないのでスv」
 …え?…じゃあ?…
 「…千年公?でも俺…」
 「…あれは条件付けをしたでショウ?v…それに我輩は言いましたヨv『大丈夫だから安心しろ』トv…だから辛うじて…間接的な形でなら出来たのでスv…直接的に致命傷を与える事は我々には出来ないのでスv…なにしろ『アレ』は本来『敵』ではありませんからネv」
 …成る程…だから…殺したくないと…だからホッとしたのか…
 …でも…それでも…いまはあっちにいるんだよな…?…
 …大丈夫なのか…?…そんな『特殊』な『ヤツ』を『あちら側』に置いておいて…?…
 …そう…疑問を持ち…その事を問えば…
 …千年公は…ニィと笑って…
 「エエv勿論vいつまでも『あちら』にいさせるつもりはありませンv散々『アレン』を苦しめた『人間共』いまさら『アレン』を仲間だ等と…まったく愚の骨頂でスv…『ヤツラ』に『アレン』は勿体なイv…そろそろ『こちら』に『戻って』来て貰いまスv」
 「…てことは連れ戻すんですか?」
 …そうは言っても素直には『こっち』に来そうもないんですけど?
 …そう聞くと…
 「…大丈夫でスv『記憶』の『封印』さえ解ければ…『アレン』は我々と『敵対』できなくなりまスvだいぶ人間に愛着を持ってしまった様なので、ヤツラの傍を離れ難く思うかも知れませんガv…必ずこちらに戻ってきまスv『人間』は『アレン』を裏切りますガ、我々は『アレン』を裏切りませんからネv…そして…それハ『アレン』も知っているのデv…もし『アレン』が『あちら』を離れ難くても…結局は大丈夫でスv」
 「…ってことはその『封印』は解けるんですか?」
 …『封印』が解ければ…と言うのは…逆を言えば…解けなければ無理だと言うことだ…
 …だが千年公のこの口振りは…
 「…術者はとっくに死んでいますからネv…揺さぶればなんとでもなりまスv…馬鹿な人間共の御陰で随分ゆるんでもいますのデv…あともうチョットだと思いまスv」
 …成る程…
 「…じゃあ俺に一度殺せと言ったのは…揺さぶりの意味もあったんですね?」
 「…エエvそうでスv…いまアレンハ…自分や自分のイノセンスに対シv多少なりと疑問を持っている筈でスv…ですかラv更に揺さぶろうと思いまスv…このまま…クロスと合流されたリ、教団に帰られては困りますからネv」
 「…どうするんです?」
 …そう聞いたら…
 「…フフv…どうやらヤツラはあの可愛らしいお嬢さんのイノセンスに『ハート』の可能性を見ているようでスv…ですかラその勘違いを利用させて頂きまスv」
 「…そう言えば…千年公…あのイノセンスはなんなんです?明らかに他と違ってませんでした?」
 …千年公の口振りから察するにとっくに『ハート』は確保済みと言うことになる…ならじゃあ『アレ』は…?…
 「…ティキぽんvイノセンスにもイロイロあるのですヨv…最も重要なのが『クラウン・クラウン』で…他にも幾つか『ハート』に大きく影響を及ぼしうる『重要』なイノセンスがありまスv『クラウン・クラウン』以外の他のイノセンスは『プログラム』されている『優先指令』の『内容』が異なるので、我々と敵対するのでスv…そして敵対するモノであるが故に…7千年前と姿を変えているだろう現在の重要度の高いイノセンスがどれか…我輩にも解らないのでスv…一つを除いテv…可能性が高いのは元帥だと思っていたのですガv…どうやらあのお嬢さんの『モノ』がかなり怪しいですからネv…ついでなので確かめさせて貰いまスv」
 …はあ…つまり…元帥討伐も…それなりには重要ってことか…
 …で…そして…あのお嬢さんも怪しいと…ふむ…あれ…?…
 「…千年公?一つを除いてって?…少年のイノセンス以外にも一つは重要なのが解ってるって事ですか?」
 「…エエvそうですヨv『キューブ』と言いまスv教団にある筈でスv…このイノセンスも少し『特殊』な『タイプ』で、これだけハv7千年前から変わらぬ姿で『存在』し、また『装備型』でも『寄生型』でも無い為、適合者は恐らく『ヒト』の姿をしてはいないでショウv」
 「…それはいいんですか?」
 …奪わなくて…言外にそう問うと…
 「…エエv…適合者が既にいる以上『アレ』はそう容易くは奪えないのデv後回しでスv…なんだったら放っておいても別に構いませンvアレはかなり『ハート』に近いのデv『ハート』に近い『モノ』程『ハート』と『影響』しやすいのデv『ハート』がこちら側にある以上はさして問題無いのでスv…第一…『アレ』は攻撃用ではありませんしネv…あちらに渡して都合が悪いイノセンスはアレンの『クラウン・クラウン』だけでスv…なにしろ『アレ』は『ハート』覚醒の大切な『鍵』ですからネv」
 …そう言って千年公は笑った…

                                            ―続く―