「…アレンおぬし、ここ数日おぬしが魘されておることは知っておるの?」
 「…え?ええ…でもたぶん師匠の夢でしょうから気にしなくても…」
 アレンはブックマンの問いに、やはり昨日の昼と同じ答えを返す…
 …昨夜は…もうそんな風には思えない…そう言って青ざめていたのに…
 「…アレン…昨夜リナ嬢がおぬしをおこそうとしたことは覚えておるか?」
 「?え?そうなんですか?…リナリー随分心配してくれてるんですね…でも…だとしたら起きられなくてリナリーには悪いことをしましたね…」
 …あっ!じゃあなんかリナリーが今朝元気がなかったのって、寝不足の所為なんでしょうか?…それならリナリーに謝らないと…
 そう言ってリナリーに謝りに行こうとするアレンを、ブックマンは引き留める…
 「…アレンそれは取り敢えず良い…」
 「え?…でも折角リナリーが…」
 …起こそうとしてくれたのに…そう言い掛けたアレンを遮ってブックマンが言う…
 「…おぬしは昨夜起きた…覚えてはおらぬようだが…起きて蒼白な顔で…元帥の夢ではないと言った…」
 …昨夜の事を…イノセンスの事は伏せて…
 …そうしてアレンの様子を見るべく話し始める…


 
悪夢―10―


 「え…でも…僕は…」
 …僕は…そんなこと…
 「覚えておらぬのは…思い出したくない『何か』が『過去』にあったのではないのか?それを夢に見て魘され…思い出したくないがゆえに忘れておるのではないのか?」
 …ブックマンのその言葉に…『何か』が揺らめく…
 「…僕は…」
 …知らない…
 「…アレンおぬしが元帥と出会う前のことを話しては貰えぬか?」
 「…師匠に出会う前…それは…父と…大道芸をして世界中色んなところに…」
 …マナと出会ってからの日々は楽しかった…とても…幸せで…
 「…ではその前は?…アレンおぬしはいつ頃どのようにして養父と出会ったのだ?」
 …マナと…出会う前…?…
 「…雪の中…マナと…」
 …出会う前…?…出会ってからは幸せだった…それまでが嘘みたいに…でも…なんだ…まるで…

 「…待て…アレン、『マナ』というのは?」
 「…え?…父の…養父の名前ですが…」
 …アレンの徐々に蒼白になっていく顔色…にやはり『何か』あるのではと思っていたブックマンだったが…アレンの口から出た『養父』の『名』に『まさか』と思う…
 「…アレン…『ウォーカー』という姓は、その『マナ』という人物のものか?」
 「?え?ええ…そうですけど…」
 アレンは蒼白になりながらも、ブックマンの質問に、どうしてそんなことを聞くんだろうと言う様子で答える…
 「『マナ・ウォーカー』それがおぬしの父の名だと?」
 …なんと言うことか…迂闊だった…『ウォーカー』その名を聞いた時…気付くべきだったのだ…何故偶然などと考えた…
 …同姓同名?…否…
 『ノアを裏切った男』の名と『寄生型イノセンス保持者』を育てた男の名が?
 …そもそも『あの男』は何故『裏切り者』となった?
 …もしもこの両者が同一人物と考えれば…
 「…どうか…したんですか…?…」
 アレンの顔色が僅かに良くなっている…そして不思議そうにこちらを見ている…
 「…いや…似たような名の男を知っているだけだ…」
 …確信は無い…それにいまアレンに自身の養父が『ノア』かも知れぬと言えば…どれほどのショックを受けるか…
 …いまはまだ話すべきではない…そう判断してブックマンは誤魔化すことにする…
 「…そうですか…」
 アレンはさして気にした風でもない様子でいる…
 「…ではアレン悪いが話を戻すぞ…おぬしはその『マナ』とはどのように出会ったのだ?…赤子の頃にでも拾われたのか?」
 …そう言って話を戻そうとして気付く…

 …アレンの様子が…明らかにおかしいことに…

                                            ―続く―