「アレンの様子はどうだ?」
 戻ってきたブックマンはラビに小声で聞いた。
 「…いつもと殆ど変わるねぇさ…でも…」
 「…どうかしたのか?」
 言いよどむラビの様子に何かあったのかと問う。
 「…何か特別ってわけじゃないさ…でも…アレンのメシを食う量がいつもより多いみたいさ…」
 …既に普段の倍は食べているのに…アレンはまだ食べ続けているとラビは言い…
 「…まあ…たぶん昨夜のイノセンスの件で…本人覚えてなくても…腹が減ってるんだと思うんさけど…」
 「…ふむ…成る程…それはあり得るな…」
 ラビの言葉にブックマンが頷く…
 「…で?ジジイ、コムイはなんて?」
 「…うむ…イノセンスか左目…或いは…アレンの『過去』に『何か』があるのかも知れぬ…そう言っておった…」
 …そう言ってブックマンはラビに説明を始めた…


 
悪夢―9―


 「…アレンの過去?なんでさ?」
 アレンの過去に何かがあるかも知れない、そう聞かされて、ラビは何故いきなりそう言うことになるのかと問い掛ける。
 「…アレン・ウォーカーの現在に於いて、どれほど精神的なダメージがあったとして、関連する一切の記憶を忘却するという様な、防衛行動をとるとは思えん、アレンの精神はそこまでヤワではない…これは私とコムイ双方の見解だ…しかし…『過去』ならどうか…そうコムイは言った…相当に幼い頃に自己防衛の為に『記憶』を『喪失』するような『何か』にあっていて…そして現在も無意識下において思い出したくないと思っているのなら…しかしなんらかの切っ掛けで、その『思い出したくない』内容を思い出し掛け、それを夜毎夢に見ているとしたら…その防衛反応で関連する事項を忘れておるのかもしれん…そうコムイは言った…問題はアレンの『現在』ではなく『過去』にあるのかもしれんと…その可能性の確認の為にも、少しこれからアレンにそれとなく聞いてみる…夢で魘されるような『何か』が昔なかったかとな…」
 「アレンに直接聞くんさ?」
 「…でなくば他の誰に聞くという?」
 当たり前のことを聞くなと、ブックマンはラビを叱りつける。
 「…で…でももし『何か』があったんなら…」
 「…恐らく聞いても無駄であろうな…それどころか…なんらかの拒絶反応がでるかも知れぬ…」
 「解ってるんならっ!」
 「…その反応を確かめる為に聞くのだ…但しやりすぎてもいかんが…刺激しすぎぬ程度に…アレンに負担が掛かりすぎぬ程度にせねばならぬ…」
 …その兼ね合いが難しい所だ…そう嘆息しながら…最後に付け足した…

                                            ―続く―