…マナと出会う前…何故だろう…その頃のことは…あまり思い出せない…
 …正確には…マナと出会ったその前後くらいから…それ以前にかけて…不思議な程記憶があやふやだ…
 …まるで…霞が掛かった様に…

 …でも…うっすらと…覚えてる…マナと出会った頃…その少し前くらいから…僕は…幸せになった…幸せというものを知った…
 …多分…とても…嬉しい事があったんだと思う…

 …でも…幼かったから忘れてしまったのかも知れない…

 …どうして忘れたんだろう…とても嬉しかったのに…

 「…あの人達が…大好きだったのに…」
 …『…忘れなさい…アレン…』…

 …どこからか『声』が聞こえる…『大好きな声』が…


 
悪夢―11―


 「アレン?『あの人』とは?」
 ブックマンの声…何故か遠くに聞こえる…
 「…解りません…思い出せない…でも…」
 …忘れろと…思い出すなと『声』が聞こえる…
 「…その人達に出会う前は…やっぱり覚えてないけれど…何か…とても…そう…何かが凄く恐かったような…」
 …『…忘れなさい…アレン…その『記憶』はおまえには必要ない…』…
 …『声』が…聞こえる…

 …ばたり…どこかでそんな音がした…

 …『…アレン…お前は…悪い夢を見たんだ…』…
 …『声』が…
 …『…これからは…私と一緒に世界を廻ろう…』…
 …これ…マナ?…
 …『…色んな所に行って…色んな優しい人達にあって…そしてたくさん『幸せ』になるんだ…アレン…お前は『神』に愛されているんだから…』…
 …でも…知らない…
 …『…だから…どうか…『世界』に…『人間』に…『絶望』…しないで…』…
 …何を言ってるの…絶望?…どうして?…
 …『…『……』である…私でさえ…『人間』を愛せた…』
 …いま…なにを…マナが何だって…?…
 …『…だから…『人間』のお前にそれができないわけはないんだ…どうか『あの人』の思惑に踊らされないで…『あの人』を信じてはいけないんだ…』
 …『あの人』って誰…
 …『…お前を殺せないから殺さないだけで『あの人は』…お前の味方なんかじゃないんだから…』
 …ぼくを…殺す?…なぜ?…『あのヒト』が…?…そんなはず…
 …『…お前の味方は別にいるんだから…だからいつか会わせてあげるから…いつか『あの人』の手から逃がしてあげるから…きっと『あいつ』ならお前を一人前の『………………』に…お前は…』…
 …なにを言ってるの…
 …だって…『あのヒト』が言ったんだよ…マナ…
 …味方…だって…家族だって…

 …『…忘れなさい…』…

 …どうして…?…だって…『家族』なんでしょ…?…『あのヒト』も…マナも…ぼくも………も…
 …だって……『……』を…くれた…よ…?…

 …『…忘れなさい…』…

 …優しかったのは『あのヒトタチ』ダヨ…
 …『…アレン…お前の本当の味方は…』…
 
 …『…う…そ…』…だって…あいつらは…ぼくを…
 …ぼくを……いじめたんだ…

 …ばけものって…言って…

 …『…誤解だよ…アレン…いつかきっと解るから…』…

 …ぼくが…『にんげん』じゃ…ないから…『おなじ』じゃないから…

 …『…人間だよアレン…アレンは彼等と同じ人間…』…

 …ちが…だって…

 …『…その腕は…人間を守る為に、神様がくれた贈り物だよ…その腕はアクマを壊すことができるんだ…』…

 …なんで…?…

 …なんで…こわすの…?…

 …だって…ぼくは…

 …だって…

 …そんなこと…『あのヒト』は…

 …『…アレンぜんぶ夢だよ…『あのヒト』のことも『アクマ』のことも…』…

 …『…忘れなさい…』…

 …『…辛い記憶と一緒に…この『雪』が隠してくれるよ…まっしろに…そしていつか…とけて消えてしまうから…この『雪』の様に…だから…アレン…それまで…私が…ずっと…』…

 …『…ずっと…護るからね…』…

 …『愛しているよ…アレン』…

 …『…忘れなさい…』…
 …『…思い出さなくていい…』…
 
 …『…お前の『悪夢』は…『雪』が…けしてくれるよ…』…

 …『…だから…もう一度…一からはじめよう…私とお前はこの『雪』の中で出会うんだ…『名前』は…アレン…そう…消えないんだね…じゃあ…その『名前』は『私』が付けた…いいね…『私』が付けたんだ…いいね…『私』の『名前』は『マナ・ウォーカー』…お前の『名前』は『アレン・ウォーカー』だよ…いいね…『今日』から『家族』だよ…『二人きりの家族』だ…仲良くやろう『他』には『誰』もいないよ…辛い『記憶』はこの『雪』みたいに『白く』なっていつか消えるよ…え?『灰色』だって…そうだね…いまは少し汚れてるね…でも『雪』は本当は『白』いんだよ…そして…その内溶けて『透明』になってそして『綺麗』に消えてしまうんだ…『アレン』の『心』も一緒だよ…『辛い』記憶は『綺麗』に消えて…いつか『アレン』を優しい『光』が満たしてくれるよ…その日まで…ずっと『私』が護るからね…』…

 …『…だから…おやすみ…アレン…』…

 …『…目覚めた時には…また…忘れているよ…』…

 …『…わ…た…し…の…た…い…せ…つ…な…む…す…こ…』…

                                            ―続く―